犬耳尻尾、首輪つきのメイドが誕生してから1週間。

私の仕事内容はあまり変わらず。
御曹司が学校に行っている間はいつもどおりのお掃除三昧。
変わったのは、ここから。
御曹司の帰る時間になると、耳と尻尾を装着し、入り口で他のメイドとともに彼を迎える。
首輪はつけ外しがしにくいのでそのままだ。
初めのころは少々息苦しかったが、今は気にならないほどに慣れた。

「おかえりなさいませ、隆雄様」

「おかえりなさいませ、ご主人様ワン」

綺麗に揃ってあがるメイドの声。
彼女たちの人数が少ないのは、有能な選抜メンバーがお迎えしているからだ。
数文字多い私は必ず最後、ソロになる。
不協和音を出している恥ずかしさも、最近は薄れてきた。
このままだと、近いうち正常な感覚を失ってしまいそうで、怖い。
主に、羞恥の感情が………。
これは死活問題だ。

「ただいま」

差し出された鞄を、一番近くに控える私が受け取る。
この立ち位置は、御曹司が直々に命じたものだ。

忘れもしない、出迎え初日。

「おかえりなさいませ、坊ちゃま」

綺麗に揃った、メイドの声。
屋敷に入ってきた御曹司が、何かを探すように立ち止まる。
教育の行き届いた使用人たちは、聞きたくても聞けない。
やがてあきらめた御曹司は呼ぶ。

「犬、来い!」

困惑を隠しきれなくなった使用人がざわめきだす。

「隆雄様、何をおっしゃられているのですか」

異変に気付いたメイド頭ミスズが問う。

「祝前麻里奈だよ、ここにいるんだろ?」

近くの使用人から、波紋が広がるように視線が私に集まった。
身長は少々低くとも、犬耳尻尾のせいで悪目立ちしていた私は見つけやすい。

「はい……」

隠れることもできないので、仕方なく一歩踏み出す。
御曹司の手まねきに導かれるまま、彼の前に立った。

「そこじゃない」

手を引っ張られ、御曹司の斜め後ろにつく。

「ここだ」

押し付けられた鞄を反射的に受け取る。

「今日からお前は俺をここで迎えること。いいな」

ここにいる使用人全員に聞こえるように言う。