翌日。
学校から帰ってきた御曹司が私を呼んでいると、メイド頭のミスズさんが迎えにきた。
私は彼女に連れられて一際豪奢な扉をくぐる。

「祝前麻里奈をお連れしました」

「ご苦労だったな、下がっていい」

こちらに背を向けた御曹司の命令に、ミスズさんは一礼して静かに去った。
この広い密室、おそらく御曹司の自室に私と彼のふたりきり。
音のない空間で、己の心臓がうるさい。

「………俺はあのあと考えた、そして気づいた。もう無能なあいつらに任せてはおけない。これからは俺がやる!」

「はぁ……」

「親父に言って追い出すのは簡単だ、だが、それはしないでおいてやる。感謝するんだな」

「そらどーも」

言わないんじゃなくて、言えないんじゃなかろうかと思ったが、口に出さないでおいた。

「だから、お前は今から俺のペットだ。ペットは主人に絶対服従、俺に逆らうな」

このぼんぼんは何を言い出すかと。

「だからこんなものまで用意してやった。その方が雰囲気出るだろ。なに、礼はいらない、ペットは可愛がってこそだ」

ゆったりと振り向いた御曹司が投げて寄越したのは、犬耳のついたカチューシャと、尻尾のついたベルト。
これをつけろと?
目の前に立つ御曹司を見上げる。
購入するときの情景がシュールである。

「なんだ? つけかたもわからないのか、仕方ないから俺がやってやる。ありがたく思え」

両手にあった犬耳尻尾をひったくるように取り上げ、装着される。
最後に首に閉塞感を感じたと思ったら、体が離れた。
ありがたみなど一切感じない行為である。