大浴場のあとは、トイレ掃除。
夕食の後、お皿洗いが終わると、今日はもうあがっていいとのお達しが来た。
もうとっぷりと空が暗くなった、日付が変わる直前のことである。

「明日は5時から食堂の掃除、それが終わったら正面入り口から外をほうきで掃く。旦那様と御曹司が出る前に終わらせること。それから朝食で、お皿洗いで、後は今日の通り」

教えてくれたメイドの言葉を忘れないように、繰り返しつぶやく。
豪邸の窓から漏れる明かりで、小屋まで歩いた。
もちろん、小屋には電気なんてものはない。
開け放った扉から淡くさす光を頼りに、箱の中身を確かめた。
メイド服は残り2着、下着も同様で、洗いまわしするには充分な数ある。
タオルも数枚あることを確かめてから、それらをひとつずつ持って小屋を出る。
向かったのは、豪邸とは反対側。
少し行くと、公園にある水のみ場のようなものがあった。
最後に会ったメイドいわく、使用人は豪邸内で湯浴みしてはいけないらしい。

郷に入っては郷に従え。

では、どこでお風呂に入っているのかと問うて、教えてもらったのがここだ。
敷地内に何箇所かあるこれで、身支度をしているのだという。

「つめたっ!」

バルブをまわし、出てきた冷水に手を引っ込める。
だいぶ暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ寒い。
でも、使用人たちは毎日これなんだ。

「よしっ」

気合を入れて、頭から冷水を被る。
素早く体を洗い、服を着る。
案外できるものだと知った。
ついでに着ていたメイド服を洗い、それを抱えて小屋に戻る。
その中に張られている紐にハンガーをかけた洗濯物を干す。
目覚まし時計をセットし、薄い布団を被った。
住んでいたマンションを思い起こさせる布団に懐かしさを覚えると同時に、体から一気に力が抜け、押し寄せてきた眠気に負けた。