一般人令嬢は御曹司の婚約者

「あらやだー。ここの掃除してるのはだれよー?」

声のしたほうを見ると、先ほどすれ違ったメイドだった。

「私ですが………」

応えて近づくと、メイドはこれ見よがしに人差し指の腹についたほこりを見せてきた。

「ぜんっぜんできてないじゃない。最初からやり直しね」

「申し訳ございません、今すぐ…」

わざわざ、初めてだからと言い訳することはない。
ここは波風立てず、すぐ取り掛かるのが一番。
見落としがあったなら、そこは私の落ち度。
言い方がいくら癇に障ったとしても、反抗するなんて、お門違いも甚だしい。
彼女は間違ったことは言っていない。
私は一礼して掃除用具部屋に行こうと踵を返した。

「わっ!」

その時、何かに躓いてちりとりに集めたごみを盛大に散らかしてしまった。
自身もこけるが、とっさについた手で顔をぶつけることは免れた。

「やだわー、何もないところでこけるなんて。あなた、この仕事向いてないんじゃない? ブスはブスらしく、田舎で泥仕事でもやってなさい」

おほほと上品に笑い、メイドはごみを足で広げながら去っていく。
完全に足音が聞こえなくなってから、無意識に握り締めていた拳を解いて床に散るごみを片付けた。
先ほどのメイドに指摘された箇所も掃除して、今度こそ終了。

「時間です。次に行きますよ」

丁度良くミスズさんの迎えも来た。

「はいっ」

私はミスズさんの後について、次の場所に移動する。