「……………」

「……………」

再び訪れる沈黙。
下手なことは喋れないから、無言に徹する。
冷や汗が背筋を伝う。
唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。

「で、お前はここに何しに来たんだ」

初めて御曹司からかけられた言葉がこれだった。

「何しに……、私はあなたと婚約するため、と聞いています」

「ほぅ………。親父から近々見合いをするとは聞いていたが、なるほど」

くつくつと喉で笑う彼は不気味な影を纏う。

「祝前、聞いたことがある。事業低迷してるやつらが、うちを頼るための生け贄ってとこだろう」

「………」

なんのことかわからない私はただ黙って聞いている他ない。
彼の言葉を信じるならば、これは政略結婚。
それも、圧倒的こちらが不利な………。

「貴様が俺の見合い相手か……。ま、せいぜい楽しませろよ」

高圧的にいい放った男は、私を鼻で笑った。
喩えるなら、体のいい下僕。
新しいおもちゃを与えられた子供。

生かすも殺すも彼次第。
私の命は祝前家だけでなく、草薙隆雄にも握られることとなった。