通された部屋には、先客がいた。

「ようこそお越しくださいました。当主の草薙雄一(ゆういち)です」

「存じ上げております。私、執事の藤宮と申します。こちらが祝前麻里奈です」

藤宮の紹介に会釈した。
当主を名乗った男性の後ろに控える青年は、興味無さそうに眺めてくる。

「これがうちの息子の隆雄(たかお)だ」

「初めまして、草薙隆雄です」

己が紹介されると、一変。
無愛想面が好青年に早変わり。

「では、後は若いふたりに任せて行きましょうか」

当主の一声で、無駄に豪華で広い部屋に私と草薙隆雄だけが残された。

「……………」

「……………」

沈黙が重い。
普通のお見合いなら、保護者はもう少し面倒を見てから去るものではありませんか?
当主と執事が出ていった扉を見ていても、彼らが戻って来ることはない。
覚悟を決めて、御曹司に向き合う。

「……お初にお目にかかります、祝前麻里奈と申します」

慎重に言葉を選びながら、声にだす。
他人の名前を語る日が来るなんて、思ってもみなかった。

「さっき聞いた」

身も蓋もないことを……。

沈黙から解放されるための話題を必死に探す。

「…おいくつですか?」

「聞いてなんになる。………お前と同じだ」

「高校2年生ですか。最近の高校生は大人びていますね」

「はぁ? お前高校1年だろ。分かりやすいサバ読むんじゃねぇよ」

「あ………」

私は高校2年生だけど、祝前麻里奈は1年だった。
執事が『必要最低限のみ口を開くように』と言った意味がわかった気がする。

このままでは近いうちに墓穴を掘ることになりそうだ。