広い部屋の長いテーブルで独り、朝食をいただいた。
ご飯に梅干しなんて寂しいものではなく、種類豊富なパンに、スープ、他おかずも複数品。
少食な私は、半分以上残してしまう。

もったいないことしちゃった。
タッパーに詰めてもって帰りたいな。

「お嬢様お時間です」

未練がましく見つめる私の目の前で、料理は下げられた。
タイムリミット。

黒塗りの高級外国車に乗せられ、道中、助手席の藤宮から教育という名のお小言を賜った。
要約すると、草薙財閥に媚を売り、嫡男と婚約してくること。
失敗すれば、私はまた別のところに売られる。
藤宮が常に傍で目を光らせているため、逃げられない、と。

私はずっと下を向いて、唇を噛んでいた。
名も知らないブランドのスカートの裾を、しわが残るくらい握りしめながら。

着いた先はやはり豪邸。
もう驚くまい。

正面の大きな扉から中に入ると、左右に並んだ大勢の使用人に迎えられた。

「いらっしゃいませ」

「こ……ごきげんよう」

『こんにちは』と言いかけたのを誤魔化せたかな。
お嬢様といえば『ごきげんよう』という挨拶。
掴みは上々……。

急に背筋がゾクリとした。
藤宮が絶対零度の目をして怒っている。

『必要最低限のみ口を開くように』に、挨拶は入りませんか。