明るい朝日が差し込んできて、いつの間にか寝ていたことに気付く。
案外肝が座っているみたい、と他人事のように思った。

コンコンコンとノックが3回。

「おはようございます」

入ってきたのは執事服に身を包んだ年若い男性。
切れ長の目が冷たい印象を与える。

「本日より麻里奈お嬢様にお仕えさせていただきます、藤宮(ふじみや)と申します。早速お嬢様には身支度を整えていただきます」

藤宮が2回手を叩くと、メイドが3人素早く部屋に入ってきた。
顔を洗われて、着たままだった制服を剥かれ、おしとやかな純白のワンピースを着せられる。
シンプルながらも洗練されたデザイン、上質な生地。
どれをとっても貧乏人の私には手の届かない品に違いない。
最後に髪を整えられて、メイドは来た時と同じように風のように出ていった。

「朝食の後すぐに草薙財閥のお屋敷に向かうことになります。呆けている時間はございません」

メイドの鮮やかすぎる手捌きに呆然としていると、藤宮が鋭い眼光で睨み付けてきた。

「はいっ」

恐怖のあまり、バイトの癖で返事をしてしまう。
根付いた習慣はとっさの時に出てしまうもの。

やっちゃった……。

「………必要最低限のみ口を開くように」

厳重注意で済まされ、一息ついた。