「もう、迷わない。お前のことを信じ、お前だけを一生愛すと誓う。だから……」

間近で見詰め合う。
強い眼光に捕らわれて、逃げられない。

「俺と結婚してください」

無音の世界、御曹司の真摯な言葉だけが聞こえた。

飲まれそうになるのを、なけなしの理性で押しとどめる。

「ま、まあ、友達からなら……っ」

「やった!」

真剣なものから、急に無邪気な笑顔になるものだから、柄にもなくドキッとした。

「じゃあこれ、婚約指輪な」

そう言って御曹司は、私の左手をとり、薬指に噛み付いた。
痛みに眉をしかめると、すぐに離れる。
ぱっと目の前に左手を持ち上げると、薬指の付け根部分にくっきりと歯形が残る。

「もうっ……」

「悪くないだろ」

彼はニヒルに笑った。

いつもは殴り飛ばすところだが、今は嬉しいと思う。
自分の感情が分からない。
けど、嫌じゃない。

御曹司の付けたあとを右手で大事に包む。

友達からとは言ったものの、もう自分の中で答えは出ていた。

「そういや俺、お前の名前知らねーわ」

御曹司は私から1歩離れて。

「俺の名前は草薙隆雄(くさなぎたかお)。隆雄って呼んでくれ」

差し出された手のひらに、私の手を重ねて。

「私の名前は…………」

風で草木がさあっと揺れる。
続く言葉はかき消されたけれど、隆雄には届いたようだ。

今までにないくらい優しく微笑んでから、とても愛しそうに私の名前を呼んだ。