「な、なんのことかしら」

「言いがかりはよしなさいよ!」

「そうですか。では、この花をくれた方にお伝えください」

花をひと撫でして、彼女たちに向き直る。

「素敵なものを有り難う。あなたの告白、確かに受け取りました、と」

「告白? バカじゃないの?」

「そうよ、そこまでされてそんなこと考えるなんて……」

私は笑みを深める。

「だって、ふた月も来なかった私のためにしてくれたのでしょう。それに……」

買ったばかりのスマホで花言葉を検索する。

「あなたを愛します、私の愛は増すばかり、不滅の愛、永遠の愛、初恋、熱烈な愛、死ぬほど恋焦がれています、変わらぬ愛。……こんなに並べられて、告白と思わないほうがおかしいですわ」

うふふと笑ってみせる。
彼女たちは、ショックを隠せないようだ。
花を置くのが裏目に出ましたね。
もちろん、彼女たちが告白のために花を置いたのではないと分かるけど、言いたくなってしまいました。

ここは私の勝ちかしら?

「でも、お気持ちを受け取ることはできません」

私は花瓶ごと教卓に置く。

「花に罪はありませんから、ここに置かせていただきますね。教室の彩りにもなりますし」

では、と席に着くと、丁度よく担任が入ってくるところだった。
生徒たちは放心しながらも自席に着く。

「おっ、花があるじゃないか。気が利くな」

担任からも好評からしい。
教室の一部から舌打ちの声が聞こえた。
犯人はアレかなーなどと思いながら、伏せた顔の下で口角を上げた。

ああ、クラスメート全員が出会ったころの御曹司に見える。
くだらない嫌がらせで追い出そうとしてきたあの時の。

そう思うと、つい涙がこみ上げてしまうのだ。
あのやり取りが懐かしい。

その後も、授業中教師の目を盗んで紙くずを投げられた、ペットボトル入りの水を頭からかけられた。
もちろん、紙くずは投げ返し、使用済みモップに染み込ませた水をお返しした。
その度に御曹司を思い出す。

離れてからそのものの大切さに気付くなんて、よくある話。

私は、綺麗な思い出として。
もう会えないだろう彼を、心の宝箱にそっとしまっておくのだ。