御曹司に、私が祝前麻里奈じゃないと知られ、マスターに拾われてから1週間が経った。
およそふた月ぶりの学校は、いい思い出もないくせに懐かしく感じる。

登校中、周りからは奇異のまなざしで見られた。
団体で話している人からは。

「あいつ、やめたんじゃなかったの」

なんて陰口をいただいた。
堂々としすぎて陰口とは言わないかもしれないけど。

下駄箱に着くが、酷い異臭はしない。
そらそうだ。
来もしない人のために周囲が迷惑をこうむるなんて、無駄な事この上ない。

上靴は常に持ち歩いているから必要ないけど、好奇心で私の靴箱に寄る。
開けると、手紙がドバドバと落ちてきた。

こうきたか。

落ちずに靴箱に残っていたものを一枚取り、カミソリに気をつけて開封する。
中には大きく汚い字が書いてあり、他のも同様だった。
解読すると、キエロやらシネやら、単調な単語しかない。

ふた月前までの私だったら、鞄に詰めて小さくなっていただろう。
だが。

「きゃー、私、愛されてるぅー」

なんだか可笑しくなって大声で笑ってしまった。
だってそうでしょう?
長い間学校に来てなかったのに、こんなにお手紙がもらえるなんて。

手段は違えど、幼稚な嫌がらせには耐性がついた。
このくらいじゃへこたれないわ。

周りにいる人達は、私を変なものを見る目で見ていた。
くるりとその人達に営業スマイルを向けて。

「おはようございます」

爽やかな挨拶をし、教室へと歩を進めた。

廊下でも生徒は私に譲るように道を空ける。
ここでも、何でここにいるんだというお言葉をいただいた。

下手したらほんとに退学することになっていたかもしれない。
休学届けを出してくれていたマスターには感謝ね。

教室に着くと、私の机であろうそこには、花が活けてあった。
クラスメートからはくすくすと笑われる。

「やだー、やめたと思ったのにー」

「これじゃぁ花の無駄だよな」

「あんたがいなくなって清々したってのにね」

「知ってる? あいつ、学校サボってる間にイケメンに言い寄ってたらしいよ」

「マジ!? ヒクわー」

「貧乏人はプライドってもんがないのかしら」

ギャハハと笑う声も懐かしい。
活けられた花に触れ、ひとつひとつ見ていく。

アネモネ、ナンテン、チューリップ、ライラック、カーネーション、バラ、キキョウ。
季節はずれのものまでわざわざ用意してくれて……。

「このお花はあなたたちが?」

大声であざ笑う集団に声をかける。
初めて声をかけたからか、彼女たちは一瞬黙った。