「あのっ!」

私が聞きたいのはそんなことじゃない。
続けて口を開こうとすると、やはり田中さんに遮られた。

「恐れながら申し上げます。あなた様はこの祝前家に売られたのです。あなた様のお名前は祝前麻里奈ただひとつ。花園女学院高等科1年で、現在休学中の身でございます。あなた様の使命は草薙財閥の御曹司と婚約し、祝前家との繋がりを持たせること以外にありません。祝前家の未来のために、やってくださいますね」

有無を言わせぬ威圧感に負けて、コクリとひとつ頷いた。

「よろしい。それではお部屋にご案内いたします」

ニコリと笑んで歩き出す田中さんを3歩後ろで追う。
導かれるままに付いて行き、豪奢な扉の奥、暗い部屋に押し込まれる。
まるで、私の未来を暗示しているようで怖くなった。

今、アタッシュケースに詰められた諭吉達の意味がわかった。
私の知らない借金のカタに、祝前家に売られたのだ。