お腹いっぱいになってファミレスを出る。
カードを出そうとする御曹司を制して、一万円札を出した。
どうしてという目を向けられたが。

「ここはお姉さんに任せなさい」

どーんと胸を張り、にかっと笑ってやる。

「同い年の癖に生意気だぞ」

御曹司は肩をすくめてから、カードを懐にしまった。
私の嫌がることはしないを忠実に守っている。

ファミレスを出てから適当にぶらつく。

「おい、どこ行くんだよ」

「お金を使わない楽しみ方を教えてあげるわ」

「男は貢がないといけないんじゃないのかよ」

やっぱりそんな事思ってたのね。
高級ブティックに連れて行かれたとき、もしやと思ったけど。

「誰がそんな事決めたのかしら、少なくとも私はそんなものいらない」

「なっ……!」

「さあ、行きますよ」

私は御曹司の手を引いていろんなところを歩き回った。
ショッピングモールに入り、お手ごろ価格の服屋をあさる。
お互いに着せるだけ着せあって、買わずに次へ。
文具コーナーはなかなか面白く、サンプルを使ってははしゃぐ。
家電のマッサージチェアを体験したり、食品売り場の試食を制覇したり。
そのほか、気になった店に手当たり次第入っていった。

そうこうしているうちに、時間は結構たっていて。

「ふーっ、疲れたー」

「久々にこんな歩いた……」

よいしょとベンチに腰をおろして、休憩する。
私たちの手に、買い物袋は存在しない。

「車ばかり使ってるからでしょ、おぼっちゃま」

「うるせー。お前も似たようなもんだろ」

「…………そう、ね」

祝前麻里奈なら、そうかもしれない。

「どうかしたか?」

私の些細な表情の変化に気付いた御曹司が、顔をのぞきこんでくる。

「いいえ、なんでも……」

「あー、学校サボってこんなところにいたのー」

「ほんとだー。イケメン捕まえて逆ナン?」

「根暗のクセに生意気ーキャハハ!」

聞き覚えのある声にはっと顔を上げれば、見覚えのある制服を身にまとった女子集団がいた。