そして。

「行ってらっしゃいませ」

メイドトリオににこやかに見送られる。
御曹司に手を引かれ、正面に停まっていた黒塗りの高級車に押し込まれた。
続けて御曹司が乗り込み、ドアが閉まると車は静かに滑り出す。

「いきなり何するのよ」

「言っただろ、デートだよ」

「タカオサマよ、これは拉致と言うのでは?」

「女って、こういうの好きだろ? 強引でサプライズ」

「どこの一般論かしら」

どこからこんなムダ知識を仕入れているのか、甚だ疑問だ。

「で、どこに行くの?」

ここまで来たら諦める他ない。
ため息をつきながら問いかけると。

「言ったろ? サプライズって」

ウインクを飛ばされた。
私は御曹司とは逆側に身体を傾け、しっしっと手を払う。
ナルシスト菌を感染させないでくれるかな。

「何その嫌そうな反応……」

むすっとふくれる御曹司は放っておいて、車窓の景色を目に映す。

普通の学生といえば、カラオケやゲーセン、食べ歩きよね。
噂でしか聞いたことがないけれど。
どこに連れて行ってくれるのか、楽しみだわ。

家の事情があるから、遊びに行った記憶がない。
だからわくわくも人一倍。

「さあ、着いたぞ」

御曹司に促されて車を降りると、建物の中に連れて行かれた。
そこには、きらびやかな服が沢山並んでいて……。

…………趣味悪っ!

アニマルやら布の面積が小さいものに眉をしかめていると。

「お前はこっち」

御曹司に手を引かれ、フリフリの可愛いコーナーへ。
そして、真剣に服を選び始めた。
御曹司が、女の子の服を…。

「着るの?」

イヌネコパジャマといい、可愛いもの好きが高じてついに女装まで……。
引き気味につぶやくと、彼は耳ざとく反応した。

「ちげーよ! これはお前の。俺が選んでやるんだ。プレゼント!」

「えっ、要らない」

私にこんなフリフリを着ろと?
それに、服なら自分で買うし。
服屋はなにも、ここだけじゃない。

でも、着るだけならタダだし?
たまには冒険してみるのもいいかもしれない。
手近の服を手に取ると、ちらりと見えた値札。

「…………」

「おっ、おい、どこ行くんだ!」

認識した瞬間、服を戻し、御曹司の腕を掴んで、店の外まで引き摺り出していた。

おかしい、単位がおかしい、ゼロの数間違ってる!
庶民はお呼びでないって。
わかってますよー、出て行きますから。
だから店員さん、そんな変な目を向けないでください。