○1○




ファーストキスだった。




一番楽しいハズのお昼ご飯の時間も、昨日のことが頭の中を占領して、ご飯を拒む。




あの人は誰にでもあんなことするのかな。




見ず知らずの人にいきなりキスって、何を考えてるんだろう。




いくらカッコよくたって、して良いことと悪いことが…。




「みぃーつけたっ」




ーキャアアアー




悲鳴のような、歓声のような、そんな声と共に聞こえてきたのは、思い出したくもない、冬城蘭の声だった。




「水菜、行くぞ」




「え、ちょっと、あの、まだご飯っ…」




容赦無く腕を引っ張っていく冬城くんは、私の言葉に耳を貸す訳もなく、女の子の不満そうな声を置いて歩く。




柔らかそうな髪が光に照らされて透けそうで、歩く時の微細な振動にも過剰に反応してふわふわと揺れる。




チラッと見え隠れする横顔は、悔しいけど誰よりもカッコイイ。




そんな冬城くんに、キ、キスをされた、なんて…。




「…なに赤くなってんだ?」




「なっ、なんでもない…」




いつの間にか止まっていて、冬城くんは不思議そうに私の顔を覗き込む。




自分でもビックリするくらいに、心臓が暴れている。




それを不思議そうに眺めるんだから、早鐘を鎮める方法なんて…。




「オイ、なんで逃げんだよ」