「美味しくなかったら、食ってない」
「え、」
「不味くはないから、安心しろ」
「え、あ、えっと…」
卵焼きを口に入れていきなりそう言った矢沢君に、あたしは少し切羽詰まってしまった。自分から美味しいか聞いたのに馬鹿みたいだ。
「あ。そ、それは良かった。矢沢君、もっと食べて良いよ?」
「そんなに食えない」
「ええ。せっかく作ったのに」
「うるさい。ちゃんと食べるから、不貞腐れるな」
そう言った矢沢君はその後、そんなに食えないとか言ってたくせにあたしの大きなお弁当を全て奇麗にたいらげた。
「お、お腹大丈夫?」
「あ?ああ。ってか、もっと食べろって言って来たのは何処のどいつだよ」
「な、それは……っ」
「………全部旨かった。さんきゅ」
「……っ」
最後の最後に不意打ち的な言葉を掛けられ、あたしはつい心臓がドキリと跳ね上がってしまった。反則過ぎる。
「…ま、まあ、あたし料理には自信あるからねぇ」
「鼻高々に言うな。そこまで褒めたつもりはない」

