あたしと矢沢君はその後、近くのベンチに腰掛けてお弁当を食べる事にした。
「……お口に合わなかったらすみません」
「そんなもん、食べてみないと分からないだろ」
「まあ、そうだけど。あ、先どうぞ」
家から持って来た大きなお弁当箱をパカッと開けて、最初の一口を矢沢君に譲る。小さな声で「ああ」とだけ頷いた矢沢君が、あたしのお弁当に箸を伸ばした。
あたしはお弁当の定番とも言える卵焼きを口に含んだ矢沢君を、まじまじと睨むような目付きで見つめた。
「…ど、どう?美味しいかな」
あたしが小さな声でそう問い掛けると、矢沢君はチラリとこっちに視線を向ける。
「……、お口に合いましたか?」
「……ん、」
「え、ちょ。矢沢君」
あたしが恐る恐る問いかけると、矢沢君は何故か何とも言えない返事を返して来て、不意にまたさっき食べた卵焼きを箸で掴んだ。
二つ目の卵焼きを口に含んで、「お前も食べれば?」とそれだけ問いかけて来る。
「………あ、うん」
あたし的には、矢沢君の感想を是非とも聞きたかったんだけれども。
目の前の矢沢君は黙々とお弁当を食べるだけで、美味しいとも不味いとも一切言ってくれない。

