ここは一体、どこであろう。

リュティアは、呆然とあたりを見回した。

あたりは鬱蒼と生い茂る緑に閉ざされていた。直立する木々が彼女を取り囲み、見上げればまるで行く手を阻むように黒々とした緑の腕が無数に交差している。その分厚い緑のカーテンに遮られ、風は凪ぎ、木漏れ日すらささない。

ここは森と呼ぶにふさわしい場所なのだろうが、こんなに暗い森をリュティアは物語の中でしか知らなかった。

しかしその暗さと相反してこの森に満ちる聖なる気配を感じた。

千年の眠りについた森、という言葉が自然とリュティアの中に浮かんできた。

そう、きっとこの森は、暗い眠りについた聖なる森なのだ。

しかしなぜ、このような場所にカイが連れ去られたのか…。

誰が、一体何の目的で。

リュティアがそわそわと周囲に視線を巡らせていると、突然頭上から声が降ってきた。

「ようこそ、僕の領域(テリトリー)へ」

リュティアは我が耳を疑った。

その声があまりにもこの場に不似合いな幼い少年の声だったからだ。

そして次の瞬間、彼女は自分の目まで疑うことになる。

なぜなら声の主が…

ふわふわと宙にあぐらをかいて浮かんでいたからだ。

いや、それだけではない。

声の主―華奢な肩からマントをひっかけ、ローブの下にズボンをはいた10歳前後の少年―の頭は、なんと見事な黄金に輝いていた。そしてその長いまつげに縁どられたつぶらな瞳は優しいアクアマリンではないか。

そんな色を宿せる存在はこの世にひとつきり。

「まさか…星麗…?」

「僕は番人。聖具“虹の指環”の番人だ」

少年はにっこりとそう名乗ったが、リュティアは即座に険のある声で言葉を返した。

「うそです」

「ほう、なんでそう思うの?」

「なんでもなにも、私にはわかっているのです。魔月の仕業に見せかけてパール王女をさらったのも、カイをさらったのも、あなたですね! そんな人が、聖具の番人なわけがありません!」

「はっはっはっ。面白いことを言うね、聖乙女(リル・ファーレ)? 御名答、確かに二人をさらったのは僕だよ。でも残念ながら、僕が聖具の番人であることは本当だ。信じるも信じないも、自由だけどね?」

この少年、人を食ったような話し方が、外見とそぐわない。

なるほどそれは、彼が人ならざる存在ゆえともいえるのかも知れないが…。