物心ついたときからいつもいつでも、カイはそばにいてくれた。

振り向けばいつもいつでも、カイの笑顔がそこにあった。

この危険な旅に出てからも、ずっとそばで、リュティアを支えてくれていた。

『リュー』

と優しく愛称で呼んでくれる人は、この世に彼一人だけだ。

彼がそばにいないことなど考えられない。

考えられないのに。


「カイ! カイ!?」

厨房の中にも、植物園にも、厩舎にも、彼はいない。

どうしていないのだろう。

こんなに探しているのに。

こんなに呼んでいるのに、彼が来てくれなかったことなど、今まであっただろうか。

「カイ―――!!!」

最後に話した時の苛立った様子が思い浮かぶ。

もしもこのまま彼がいなくなったら、――

「おい、お前」

どうしよう。最後に交わした言葉を思い出せない。

「リュティア王女!」

激しく肩を揺さぶられ、リュティアははっと顔をあげた。

気が付くと目の前にはアクスが立っていた。

彼はなぜか武装に身を包み、剣を手にしている。

なぜか、ではないとリュティアは思い出した。彼はカイのかわりに聖試合に出てくれたのだ。

「…勝ったぞ」

そう言われても、労をねぎらう言葉など出てこなかった。

ただただ、どうしようもない気持ちで、リュティアはアクスにすがりついた。

「カイが! カイがいないのです! アクスさん、どうしよう。カイが魔月にさらわれてしまったんです! 探しているのに、みつからなくて…!!」

「ちょっと落ち着け。昨夜から一睡もしないでフレイア王女たちがカイ捜索のために動き出してくれている。知っているだろう?」

「そう…なのですか…」

記憶がなかった。

それほどに錯乱していたのだ。