「ジョルデさんに匹敵する武人など、どこに…」

謁見の後、リュティアとカイは客室のテラスに二人佇んでいた。

リュティアはため息をついている。

それはもちろん、聖試合のことが案ぜられるからであろう。

しかしそれだけにしては何日も前から、リュティアに元気がないことに、気づかないカイではなかった。

そしてその理由まではっきりとわかってしまう自分が呪わしかった。

少年を追っていたのは彼が聖具を所持していると思ったからだ。それが本物ではなかったとわかった今、二人に少年を追う理由はもうない。それが辛いに違いない。

そうわかっているのに、カイはこう問わずにいられなかった。

「リュー。元気がないな。そんなに聖試合のことが心配か?」

「それは…もちろん心配です。負ければ、力を貸してもらえなくなってしまいますし…」

「本当にそれだけか」

「え?」

それだけだと言い切ってほしくて、カイは言葉を重ねた。

それなのにリュティアはそれだけだと言い切ってはくれず、ただその質問に驚いた、といった表情をしている。

なぜそんなにも驚くのか。

それはまだ、自分でも少年への恋心に気づいていないからだ…。

悔しかった。

どうして、と叫びたかった。

どうして、自分ではないのだろう。

何年も想い続けてきた、誰よりも想い続けてきたのは自分なのに。

気が付くとカイは、声を荒げていた。

「本当にほかに思い当たらないのか!」

「…カイ?」

リュティアがびくっと体を震わせたのがわかる。

リュティアを傷つけてしまったのがわかる。

それでもカイはいらだつ自分を止められなかった。

やけのように、カイは宣言した。

「聖試合は私が出る」

「カイ、でも―」

「でも、なんだ。私は弱いと言いたいのか」

「ちが…」

八つ当たりだ。

最低だ。

わかっている。

カイは今にも泣きそうな表情をしているリュティアを見ていられなくて、その場を逃げるように後にした。

残されたリュティアは、確かに今にも泣きだしてしまいそうな気持ちだった。

カイの苛立ちの原因がわからない。

今までカイがこんなふうに自分の前で声を荒げたことなど、一度としてなかったのだ。

自分の何かがいけなかったのだろうが、一体何がいけなかったのだろう。

誰とも喧嘩などしたことのないリュティアにとって、この状況はひどく辛かった。

どうすれば仲直りできるのかも、皆目見当もつかなかった。