落陽の光が階段にライトの長い影をつくる。それを踏んで登りながら、ライトは救いを求めるように父の面影を思い浮かべた。

滝のような黄金の髪を風に流し、水色の瞳を優しく細めた若々しい父。父は水と光があれば何も食べなくても生きることができた。不思議な力で泉を湧きださせ、植物たちと調和して生きていた。

どうしてもうまく剣が扱えなくて、膝を抱えた夜。

『諦めたら、それで終わりだ』『そんなこと…わかってる』『じゃあ諦めなかったらどうなると思う?』瞬く星空、流れ星をみつめながら父は笑って幼い自分の肩を叩いた。『必ずできる。お前は星麗の子だ』

―お前は星麗の子だ。

度々父はそう言ってくれた。その度ライトは魔法のように元気になり、誇らしい気持ちになった。

その父の言葉があったから、父を失っても、旅でどんなに辛いことがあっても、乗り越えてこられたのだと思うのだ。

大階段は最後の50段に差し掛かった。この50段は聖なる階段と言われ、祈りながら登れば願いが叶うと言われている。ライトは父を想いながら、何を願っていただろうか。

ゴーンと響く鐘の音が、ライトを追憶から引き戻した。

いつのまにか階段は最後の段に差し掛かり、それを踏み越えるとついに、大神殿がその威容を眼前に現した。

磨き抜かれた白大理石の高楼が、天高くそびえたっている。

大きく開かれた扉の前では神官たちが二列に分かれて吟唱していた。

頭上では日暮れを告げた巨大な鐘がまだ大きく震えていた。不安な紫のたそがれの下、大神殿はゆっくりと闇に包まれ始め、鐘だけが闇の訪れに抗うかのように朱金にきらめいている。

ライトは神官たちの歌声の間をゆっくりと通り抜けて大神殿へと入っていった。

案内役の神官が現れライトに粛々とお辞儀をした。

「懺悔、祝福、相談、祈り―何をお望みですか」

「祝福を」

ライトは大神殿の大広間の中を流れる空気に驚いていた。

澄み渡る水のような透明な空気、川のせせらぎのような心地よい楽の音と吟唱。

確かに聖なる場所だと肌で感じた。だが…

なぜだろう。ライトにはそれらすべてが圧迫のように感じられた。

「うっ…」

また頭痛だ。その激しい痛みに、ライトは頭をおさえてその場に片膝をついた。

「大丈夫でございますか」

神官に助け起こされながら、ライトは掠れた声を押し出す。

「大丈夫…だ…。早く祝福を…」

気づかわしげな表情をした神官に導かれ、ライトは神殿の中央にそびえる聖具が祀られた大祭壇へと歩を進めた。