「人間どもの間で聖乙女の伝説が語り継がれてきたように、動物となった我々魔月の間でも、動物の言葉で言い伝えられてきた伝承があるのです。それが…猛き竜(グラン・ヴァイツ)の伝説です。

決着を着けるため、再び星麗と魔月の大戦が行われるその時に…我らが王、猛き竜(グラン・ヴァイツ)が誕生すると伝説は伝えています。彼は邪闇石の力を解放して魔月の王国をつくってくださるお方、この世で唯一聖乙女の力の源である聖具を破壊しうる力を持ったお方なのです。

そして…憎き聖乙女がその17の誕生日に再び“最初の叙情詩”をつくると言われているように、彼もまたその17の誕生日に、我らに魔月の天下をもたらす“闇の叙情詩”をつくってくださると言われています。叙情詩は、人間にしか扱えぬもの。そのために、あなたさまは人間のような姿をしてお生まれになったのです」

「…それがなぜ俺なのだ。たばかるのもたいがいにしろ」

「証拠ならあるぞ」

悪魔(パワーデビル)が横から重々しい声を響かせる。

「あなたは…動物と話すことができるのでは?」

「…!」

「…やはりな。動物は皆魔月のなれのはて。その動物と心通わす自分を、おかしいとは思わなかったのか?」

「………」

「それに」

ヴァイオレットが顔を上げ、ひたとライトを見据えた。それは逃れられない呪縛のまなざしだ。ライトはその呪縛に抗い、斬り結ぶような視線を返す。

「あなたが解いている封印は、魔月の力の封印。光神めと奴の眷属によってなされた封印です。あなただってご存じのはず、雷は、炎は、地は、風は、太古の昔より魔月の力です」

「!! なんだと…!」

ライトの瞳が揺れたのを、ヴァイオレットは見逃さなかった。畳みかけるように続けた。

「あなたは、魔月なのです。あなたが力を求めるのは、魔月だからです。疑いようもないことです、あなたはすでにその破壊衝動で、フローテュリアを滅ぼされていらっしゃるではないですか」

「何をバカな…!!」

ライトの脳裏に、三か月前の出来事が蘇る。

確かにその時、ライトはフローテュリアにいた。しかしそれは…