その日の夕食は、いつにも増して豪勢なものだった。

鶏の丸焼きに、豚のアスパラ巻き、サーモンマリネ、彩野菜のサラダ、焼きたてのパンはふっくらとしたものと、ライ麦を使ったかたいもの、杏子とジャムをおりこんだものが用意され、ハーブティーが数種類、湯気を立てて並ぶ。それらすべてがフローテュリア流に花の形につくられるか、花びらをふりかけてあり、見た目にも楽しめる。

リュティアはこの食卓に、たった一人でついていた。

むろん、給仕のためリィラを始め侍女が数人つくが、彼女たちが共に食卓につくことはありえない。それでも寂しい思いをしないで済むのは、食事室の壁に飾られたモザイク画のおかげだ。

光神がフローテュリアの祖である初代国王に、「最初の叙情詩」の力を与えるシーンを描いたものだった。このモザイク画に出てくる国王の妻である女性が、リュティアの母にそっくりなのだ。だから、いつも母と共に食べている気分でいられた。

夕食の後は、湯浴みのあと、就寝となる。

リュティアは自室で夜着に着替え終わっても、まだ横にならずにいた。今日は眠れそうにないと思った。
高鳴る鼓動をどうすることもできない。

「就寝のお祈りだけでも、済ませておかなくちゃ」

リュティアは寝台の上で祈りの形に手を組むと、笑顔で、流れるように叙情詩を口ずさんだ。


「おお、我、悲しみに伏せり
 おお、我、君失わん
されど
すべての慈愛の光 我が胸に
 すべての優しさの調べ 我が耳に
 おお、我、神の御心のままに
 愛し愛され生きんとす
たとえすべて失おうとも」


歌声に導かれ、部屋に飾られた植物がにょきにょきと体をくねらせ成長する。ゆえにリュティアの部屋は植物でいっぱいだった。

この時すでに、異変は起こっていた。

空気は張り詰め、あわただしさがこの国を包もうとしていた。

しかし花園宮の奥の奥にいて、どうしてそれを知り得よう。

リュティアはふかふかの布団に体を沈め、明日のことを思い浮かべながら、いつのまにか眠りについた。