心の底から愛おしむような声で、ジョルデは続けた。

「私は彼が好きだった。二人でこのおてんば娘の教育係兼剣の師匠に任ぜられ、最初はどうなることかと思った。けれど二人で協力して、フレイアを育てたんだ。そのうちに、どちらからともなく惹かれあって…結婚した。幸せだった。けれど私は彼を喪った。絶望したよ。けれどなぜ、今まだこうして生きていると思う?」

ジョルデの声に力がこもる。

「二人で、“剣の誓い”をたてたんだ。この世継ぎの王女を、生涯守り抜くと。それが二人で叶えたい夢だった」

「ジョルデ……」

シアが―フレイアが、鼻をすすりあげる。

「そうしてフレイアを一人でも守ると決めたとき、わかったんだ。悲しみは“絶望”を意味しないって…おっと、これ以上のことは自分でみつけるといい。そうだな、もうひとつ、言えることがあるとすれば…死は、終わりではない。続いていく…ということかな」

「………」

死が…続いていく?

カイは目を見開いたまま、焦っていた。

苦しんでいるのは自分だけだなんて思って、自分はジョルデに何を言っただろう。彼女たちだって、辛い過去を抱えていたのに。それでも前向きに生きていたのに。

カイは…羞恥のために頬が熱くなるのをおさえることができなかった。

「死は…終わりではないと俺も思う」

静かに言葉を継いだのは、黙って話を聞いていたザイドだった。

「俺も、たくさんの友を戦場で亡くしてきた。宰相を父とし、かつての王女を母に持つ俺は、王位継承権第三位にあたるからな…フレイアと同じで、人の死を、間近で見るようにと育てられてきた。けれど、誰を喪っても、大切なものはなにひとつ失っていない、ずっと心にあると気付いたんだ」

隣のリュティアが無意識にか、胸をおさえる。

(…ずっと心にある…)

妹リィラの、王子ラミアードの姿が思い浮かび、カイも胸をおさえた。

心を。

「俺は天国なんて信じない。信じられるほど…強くない。だが…俺がここで生きていることは、きっと宿命なのだと思う。そうでなければ死んでいるさ。それだけ生きているってことは奇跡だって、俺は知ってる。そして俺がここで、生きて、学ぶことを終えたら、きっとまた、喪った友たちにも会えると信じている。それまでは…生きる。歯を食いしばってでも、どんなに辛くても、世界に一人きりになってしまったとしても、だ」

カイははっとした。

(私にはリューがいる…)

最愛のリュティアが、生きて、そばにいてくれる。

それは、奇跡なのだ。

それなのに自分は、つまらぬ嫉妬心から、すべてに投げやりになっていた…。

隣で涙ぐむリュティアを、カイは心底から愛しいと思った。

守りたいと思った。