「カイ、お前は自分で焼けるな?」

ザイドに突然話しかけられ、カイは物思いから顔をあげる。

「…もちろん」

意地になって答えた。

生の魚を串に刺し、たき火に差し込む。

しかしただそれだけのことなのに、カイは魚を火に直接触れさせすぎてしまい、魚はすぐさま燃え上がった。
慌てて火からとりあげても、もう遅い。

できあがったのは真っ黒焦げの魚だった。

「…………」

カイががっくりとうなだれていると、リュティアがおずおずと申し出た。

「カイ、私の魚をあげます。半分しか残っていないけれど、それでよければ」

それは男としてあまりにも情けない。

カイは断ろうとしたが、リュティアの続く台詞をきいてはっとなった。

「カイを頼りにしていますから。食べて力をつけてくださいね」

「リュー…」

カイは少し涙ぐんだ。

こういうところが好きでたまらないのだ。

抱きしめてしまいたい。

そんな衝動と戦いながら、カイは魚を受け取る。

「ありがとう、リュー。そのかわり、この果物をあげよう」

「はい」

食事が終わると、一行はこれからの旅について語り合った。

ザイドが中心となり地図を広げ、現在位置を確認する。

風穴から国境の町アサフェティダは目と鼻の先だったが、落下してしまったために、迂回路を余儀なくされるということだった。

道も灌木や岩山と悪路のためあと二日はかかるという。

就寝前、シアが改まった調子でカイとリュティアを呼びとめた。

「リュティア、カイ。…。あなたたちに、本当のことをすべて話すわ」

「本当のこと?」

「ええ。でも待って…少し、気持ちの整理をするから。明日の夜まで待って…」

そう言ったかと思うと、シアは横になり、眠ってしまった。

リュティアはしばし何か考え込むようにしていたが、不意にカイを見上げて言った。

「カイ、私たちも事情をすべて話しましょう」

「なんだって?」

「シアたちは、信頼できる人たちです。聖具についても、何か知っているかも知れないし…何より、隠し事がいやで…」

「…………」

正直言って、カイは反対だった。

けれどリュティアの真剣で潤んだ瞳を見ていると、彼女のために妥協策を考えるしかなかった。

妥協策とはつまり、まずシアたちの話を聞いて、自分たちのことを打ち明けるかどうかはそれから決めると
いうことだった。