ザイドとはどんな人物なのか。

この一日、カイはそればかり意識してしまっていた。

そのおかげでわかったことはいくつかある。

ひとつ。

容姿に際立った美しさはないものの、太い眉や引き締まった頬が男らしく、カイがはからずも意識して少々敵愾心を燃やしてしまうくらいにはかっこいいこと。

ひとつ。
ジョルデとの鍛錬の様子を見る限り、得物は槍が得意で、さすが武勇の国ヴァルラムの将と思わせるほどの腕前であること。

ひとつ。
旅慣れしていて頼りになり、ヴァルラムの人々の特徴なのか、口が悪いこと。

ひとつ。
ジョルデとシアを捜して、一団をつくり風穴にやってきたこと。彼らと話しをつけるためにカイとジョルデは出
口まで行き、隊商に用事があるという彼を隊商へ連れ帰ったのだ。

そして、シアやジョルデとは気安い仲であり、特にシアとは、恋仲にあるということ。

「この魚、もう焼けているでしょうか?」

魚の焼き加減を尋ねるリュティアに、ザイドが笑みを見せる。

崖から落下したその日の夜。彼があっというまにつくってみせた見事なたき火を囲み、一行は川で調達した魚を焼いて夕食をとっているところだった。

「ああ、食べごろだな。ここをこうして、こう持って…この部分を食えばいい。この魚はここが一番うまいからな」

「はい。ありがとうございます、ザイドさん」

「私にも早く早く! ザイド」

「淑女が先」

「なによう、私は淑女じゃないっていうの!」

ふんと鼻を鳴らしてそっぽを向くシアを見て、たまらずと言った様子でリュティアがくすくすと笑い声をあげる。ジョルデも笑っていた。

カイだけが押し黙り、楽しそうな三人をただ眺めている。

カイは自分にひどく幻滅していた。

ここまで自分が大人げない男だとは思わなかった。

リュティアが、外の世界を知ることができてよかったと思う気持ちは、もちろんあるのだ。彼女がいろいろな人と親しくなることを喜ぶ気持ちももちろんある。

しかしそれ以上に、リュティアが自分の知らない人になってしまうようで、自分だけのリュティアが消えてしまうようで、ひどく寂しいような、何か喪失感のようなものがあって、苦しいのだった。