「パールも言っていたわ。命を奪うのが辛いって。それはその通り、あたりまえの感情だと私は思うのよ。でもね」

シアはゆっくりと時間をかけて話してくれた。

命と命が、深く関わり合い、循環していく世界の構造。

雨が降り、大地をうるおし、川となり、海へとたどり着き、また蒸気として空にのぼり、それが雨になるように。

命は互いが互いのためにあり、食べたり食べられたりしながら、生態系を保っていること。

人間もその一員であること。

「私たちの命も、他の命の糧となるのよ」

「私の命が、他の命の糧となる……」

はじめて聞く話に、リュティアは呆然となる。

けれど、その話は胸にすとんと落ちてきた。

ずっと前から本能的に、知っていたのだろう。

リュティアは羽毛布団を抱きしめると、おもむろに叙情詩を口ずさんだ。

それは感謝の祈りを捧げる詩だった。

詩をひととおり歌った後、リュティアはこんな言葉で締めくくった。

「…私の命も、他の命の糧となりますように…」

隣で聞いていたシアが、陶然とした眼差しをリュティアに送った。

「今のが、もしかして、叙情詩? すごいわ」

「え? シアは叙情詩を聞いたことがないのですか?」

「ええ。ヴァルラムは、叙情詩を忘れた国よ。だから私も叙情詩を、話で聞いたことしかなかったわ。ヴァルラムでかわりに崇拝されているのは、剣よ。“剣の誓い”があるくらい」

「剣の…誓い?」

「ええ。首の前で剣を表す十字を切って、誓うの。それは決して違えられることのない約束を意味するわ。ジョルデも私に――…っと、なんでもないわ。さあリュティア、今日は羽毛布団を使ってくれるわよね?」

やや強引に話が切り替わったが、リュティアは気が付かなかった。

「…はい。食事も、衣類も、たくさんの命のおかげで、私たちと共にあるとわかりました…。感謝の気持ちをこめて、使います」

「よかった」

こうしてリュティアは、普通に育ったならば知っていて当然だったことを、隊商と共に過ごすことで、少しずつ知っていっていた。

少しずつ、成長していっていた。大きな器になっていっていた。

今の彼女の姿を見れば、父王はきっと気づいたことだろう。自分たちが間違っていたことに。

リュティアは真実を力に変えられる強い娘だった。それなのに、彼女が傷つくのを恐れてずっと何も教えてこなかったのだ。