聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~

パールは、聖具“虹の指環”の番人として生を受けたという。

聖具を守る番人は、本来ならば星麗であるはずだったが、闇神の干渉により光神は番人を力を持った“人間”として生み出すことしかできなかった。

それでも光神の偉大な力により魔月たちが復活するこの時代に合わせて生まれてきたパールは、生まれた時から記憶を持ち、自らの使命を自覚していた。それゆえに王位継承問題に自分が関わることのないようにと、王女として周囲を欺いてきたのだ。

パールは物心つくやいなや、聖具虹の指輪を彼の領域へと移した。神殿に置いていたのは、パールの力で精巧につくりあげた偽物だったのだ。だから聖具が盗まれた顛末も、パールがわざと仕組んだことにほかならない。

その理由は…

「僕の大好きな大好きな姉様なら、地の果てまでも追いかけてきてしまうだろうから、だから、聖具の紛失から魔月の仕業に見せかけて殺されたんだと思ってもらえるように仕向けたんだ。
僕の使命は聖具を守り、いつか訪れる〈聖乙女〉にそれを渡すこと…。
それを終えたら僕には何もない。
何もないんだ。
僕はずっと孤独な番人のまま…。力のほとんどを〈聖乙女〉たちに譲り渡したあとにはもう、少女の姿をとることができなくなるとわかってた。だから僕はひっそりとこのままこの国を去るつもりだった…だけど」

そこでパールは言葉を切り、ふっと微笑みを浮かべてなぜかリュティアを見た。

「〈聖乙女〉が…大切な人の大切さを言うんだ。だから僕も、大切な人には嘘をつきたくないと思った…」

「パール……」

パールはずっと、苦しかった。大切な姉姫を欺き続けることが。

そして怖かった。真実を知られることが怖かったのだ。真実を知った姉姫に拒絶されることが何より怖かったのだ。

だが真実を知った姉姫は、変わらずパールはパールだと抱きしめてくれた…。

パールはずっと疑問だった。

聖具に関わる使命のためだけに生まれてきた自分が、使命を終えてしまったら、いったいどのようにして生きればいいのかと。だが真実を知ってもなおパールを包んでくれた最愛の姉姫のあたたかい腕の中で、パールはその答えを知ることができた。

―この人の笑顔を守るために。

生きればいいのだ。パールはもう、孤独な番人ではなかった。