聖乙女(リル・ファーレ)の叙情詩~はじまりの詩~

「どうしてここにっ!?」

少年は一行から少し距離を置いた場所で立ち止まると、小さな、けれどよく通る声で呼びかけた。

「姉様」

――と。

その声に、彼に背を向けていたフレイアが一番に反応を示した。びくんと体を跳ね上げたあと、ゆっくりと、信じられないとでもいうように目を瞠って後ろを振り返る。

「パー…ル? パール、なの…?」

「ええっ!?」

これにはリュティア、カイ、アクスの三人が声を揃えて仰天した。今、フレイアは番人の少年をパールと呼ばなかったか。そして少年もフレイアを姉様と…。

では少年は実は少女だったとでもいうのか。三人のもっともな疑問を、ザイドが困惑した口調で早口に言葉にした。

「パールだって? よく見ろフレイア、こいつ男だ。パールじゃない。顔は確かにそっくりだが、髪の色だって目の色だって、黒かったじゃないか!」

「いいえ、パールよ…私にはわかる、わかるの」

フレイアがうわごとのように言う。その声は掠れていた。

「ザイド、あいにくだけど、髪の色も性別も全部、僕の術でそう見せかけてただけなんだ」

番人の少年―パールの声は何かを覚悟したように低く、それでいて不安を隠しきれないように揺れていた。

「姉様…今まで欺いてきて、ごめんなさい…これが僕の本当の姿なんだ…」

消え入りそうなその言葉が終わるや否や、ずかずかと肩を怒らせて、フレイアが歩きだした。リュティアの耳に、今も残る彼女の台詞が蘇る。

―今度会えたら、引っぱたいてやるわ。

「フ、フレイア」

たまらずリュティアが制止の声を上げる。けれどフレイアは立ち止まらない。

パールは間近で立ち止まったフレイアを泣き出しそうな表情で見上げ、ぎゅっと目をつむる。殴られる、と思っているのだろう。

フレイアが腕を振り上げる。

リュティアも思わず目を閉じかけたその時――