どうしよう。

リュティアは一人、暗い森をひた駆けていた。背後からは、狼の魔月が一匹、どこまでも追って来る。獣特有の荒い息づかいが迫ってくる。

カイに言われたとおり茂みに身を隠していたリュティアの背後から、この魔月が突然現れ襲いかかって来た。

驚きすぎて悲鳴も出なかった。

魔月から逃げるために無我夢中で体を動かしていたら、気がつくとカイたちとはぐれてしまっていた。

このままじゃいつか追い付かれる。

カイたちのように戦えたらいいのに。

戦うしかない。

でもどうやって?

胸の中を焦りが満たす。

名案も浮かばずひたすら駆け続けていたリュティアは、はっと足を止め、その場に立ちすくんだ。なぜなら前方―リュティアが逃げようとしていた方向から、すさまじいまでの禍々しい気配が近づいてきたからだ。

足がすくんで動かない。

似ている、と思った。地竜が現れたあの時と。

そしてすぐに“それ”はのしのしと大地を揺らして前方から姿を現した。

木々がなぎ倒され、大地をも割るような咆哮が空気を震わす。

太く短い前足に、うねる巨大な尻尾。そそりたつ巨体の上の頭部に殺意きらめく双眸と二本の赤い角。

地竜と瓜二つの化け物がリュティアを見下ろしていた。

違うところといえば、鱗―そう、体全体を覆う鱗の色だ。この化け物はその体にばちばちとはぜる稲妻の色をまとっているのだ。

―“雷竜”…!

リュティアの脳裏を恐怖と焦りと共にお伽噺の魔月の名がひらめく。