いつものように書架の中を歩き回る白川さんには


迷いがなかった。



廊下のはじっこを前のめりで歩いている姿とは


別物の、背筋の伸びた歩き方だ。


白川さんが、ふと立ち止まって本に手を伸ばす。


どんな本を選んだのか。


そんなことは、どうでもいい。


オレは本を読む気なんて、まるっきりなかったんだから。


書架の奥は、死角になっている。


カウンターや、席について勉強している生徒たちからは


まったく見えない。



「ねえ。白川さん。オレ、本読むの飽きちゃった。」


いつかのみすずみたいな、乾いた声がでる。


伸ばしかけた手をふと、止めて白川さんがこちらを見た。


怪訝そうな顔でオレを見ている。


きょとんとした、小動物みたいな顔を見たら、


オレのいらいらした気持ちはどんどん膨れ上がる。


くっと、喉の奥から笑い声が出た。


口の端をつりあげて笑う、自分の顔を想像する。


白川さんの目に、オレは今どんな風にうつっているのだろう。