「……ちゃん、涼ちゃん」



あれ…?

もしかして本当にあの時に戻ったの?

十の声が頭の中でこだまする。



「涼ちゃん、ごめん。はい…これ」


「十…」



キャップをはずした十が、あの時と同じ子供みたいな笑顔で私を覗き込んだ。



「……って、キャップは?」


「あぁ、欲しいって言われたからあげちゃった」



そう言って照れ笑いした。

相変わらずお人好しと言うか、バカと言うか。

度が過ぎるやさしい所は、全然変わってない。



「なに…?これ」



私の手に握られた一枚の紙。

さっきのメモ紙だ。



「学校まで行くつもりだったけど、駅でこの様子じゃ学校なんて行けそうにないから。やっぱりやめとくよ」



当然だ。

自分の立場を、理解しているのだろうか。