「やっぱり来ると思った。おじさんに頼んで、隠れて待たせてもらってたんだ」
奥に座ったおじさんは、眠った振りを始めた。
「十……」
言葉が、続かない。
すごく時間が、もったいない。
でも、言いたかったことがあったわけでもなくて、やりたかったことがあったわけでもなくて。
ただ、十が目の前にいる時間が、すごく貴重に思えた。
「どうして泣いてるか、当ててやろうか」
「十のばかっ!……」
以前ならぶっ飛ばしてやろうと思った十の調子のいい言葉も、こんなにも胸を打たれるものになってた。
ドキドキして。
心臓が壊れそうで。
私は一層激しく泣いてやった。
十に感じてた、反発心すべてを込めて。
「っとに、声でかいって……」
十がつぶやくと同時に、あの時の感触がよみがえる。
一番近くで感じる十の体温。
柔らかくて、やさしくて。
十の肩越しに見える店の入り口には、いつの間にかカーテンがひかれてた。

