「涼ちゃん」
本屋の前で私を呼び止めるのは、当然の事だけど、もう十じゃない。
木漏れ日を遮るように手を額にかざして、男子学生がこっちに近付いてくる。
「和哉くん。どうしてこんな所にいるの?」
ある日の学校帰り。
いつものように駅前を歩いてると、同じように学校からの帰りだった和哉と一緒になった。
制服姿の和哉は、いつもより少し落ち着いて見えて、今さらのようにドキドキした。
「駅前で買いたいものあったから。もしかして涼ちゃんの帰る時間と重なるかなと思って待ってたんだ。少し時間ある?」
「うん、いいよ」
私は急いで和哉の腕を引っ張ると、駅の方へと歩いた。
今日は本屋のおじさんの姿が見えなくてホッとする。
未だに和哉と一緒にいる姿を見られるのは、どこか後ろめたかったから。
考えてみれば、和哉と制服姿で一緒に歩くのは初めてだった。
制服でのデートは、昔からの憧れ。
十と歩いても、どうしても姉弟にしか見えなかったと思う駅前の道。
そういえば、本屋のおじさんは私と十をどんな風に見ていたのかな。
何もかも知ってるみたいに、いつもやさしく、私たちに声を掛けてくれてた。
私と十が入学した時から、言い合いをしながら学校に通う姿を、おじさんはずっと見てたんだ。
その期間はほんの短い間だったけど、一緒に登校しなくなってからも、おじさんは私と十の中にある関係をよく理解してくれてたみたいで。
だからこそ、おじさんに和哉といる姿を見られるのは心苦しかったんだ。

