駅を出てしばらく歩く。
人前で手をつないで歩くことが、こんなにも恥ずかしいものだと初めて知った。
みんながこっちを見てるようだ。
多分そんなことは、ないんだろうけど。
「少し階段が続くけど、大丈夫?」
「うん」
見上げる所で、和兄の白いシャツが揺れる。
十はいつも私の後ろにいたから、こんな風に男の人を後ろから見るのは初めてだった。
いや…だめだ。
十の事を思い出すのはやめよう。
和兄と合っていても。いつも十と比べてしまう。
本当に嫌になるくらい、私には十に対する悪い癖がいくつもついてしまってた。
「涼ちゃん、ついたよ」
和兄の言葉に顔を上げると、開かれた視界に、一面オレンジに光る街が広がった。
「すご……い」
一つ一つの屋根が金色に輝いて、あまりのまぶしさに、いろんな悩みを消し去ってくれそうな勢いだった。
「すっごくきれいだね、和兄」
こういう場所に連れて来てくれるのも、和兄のやさしさと男らしさに思えた。
十に見せてあげたい。
ついそう思ってしまった時だった。
後ろからちょっと細めの腕があらわれて、強く私の体を包んだ。
「もう、和兄って呼ぶのやめようよ」
少し震える腕に、私の鼓動まで大きくなる。
頭の中で、いろんなことがぐるぐる回った。
私にとっていいこと。
それは和兄とつき合うことだ。
きっと、そうなんだ。
言い聞かせるように、何度も心の中でくり返した。
「僕とつき合ってほしいんだ」
「……うん」
和兄の事なら、きっと好きになれる。
震える腕をぎゅっと握り返して、私は吹き揺れる髪の間に広がるこの時の景色を、目に焼きつけた。

