なんだかんだ言っても、やっぱりルックス大事だよね!!!
私なんか母と一緒ですっごく平凡な顔してるし、背だって低いし、ずん胴だし、ほんと平凡すぎるよね!!

なんて、そんな卑屈なことを思いながら、棚の隙間のほうから見慣れない測定器を取り出す柿坂くんをしみじみと見る。
柿坂君は、四角い箱に棒が着いたような、そんな変わった測定器を担ぐようにして、デスクの上からファイルを手にとった。

「じゃあ・・・まず、最初の仕事、教えますよ」

「う・・・うん。
ねぇ?何?その機械?私、そんなの初めて見た・・・」

私がそう聞くと、彼は、私の脇をするっとすり抜けながらさらっと答えてくれた。

「光沢度っていうのを測定する機械」

「光沢度って?」

「簡単に言えば、床にかかってるワックスが、どれだけ機能してるかってことかな?」

「ワックスのかかり具合?」

「そう。ワックスがちゃんとかかってたらさ、ぴかぴかっしょ?」

「う・・・うん」

「どれぐらいぴかぴかしてるかを測って、ぴかぴか度合いが低ければ、そこを積極的に清掃する訳。
測った数値は、設備のほうにも報告して、ワックスはげてきたら、またかけ直す。
まぁ、そういうのを見るために、毎朝測るんだ」

柿坂君の説明に、素直に私は関心した。

「へーっ!清掃って、案外合理的なことしてるんだね?」

柿坂君が清掃控え室のドアを出て行く、私はその広い背中をあわてて追いかける。
そんな私に向って、柿坂君は言葉を続けた。

「うーん、なんかさ~・・・清掃っていうと、おじちゃんとかおばちゃんとかがやってて、ただ掃除するだっけいう単純で地味な仕事って思われがちなんだけどさ、ほんとはすげー高尚なんだよ」

「え?そうなの?」

「そうだよ?
だってさ、こうやって数値を測って床ワックスの手配したり~
トイレの匂い臭いって言われたら、何が原因になってて何をどうすれば匂いが消えるかとか考えたりさ。
床の汚れを落とすには、その汚れの成分は何で、どの洗剤を使うと効率よく落とせるかとか~
すっげー色々考えてやらないといけない仕事なんだけど。
みんな勘違いしてるんだ、底辺で馬鹿な連中がやる単純で簡単な仕事だって」

「へー・・・・・」

柿坂君は、さらっと、当然のようにそんなこと言ったけど、この時の私には、まだ、たかが掃除がそんなに頭を使う仕事という実感なんてなかった。

そもそも私は短大を出て、日本屈指の大企業エテルノグループの社員として、この巨大ショッピングモールに配属されてきた。
事務系のスキルも検定も必死になって取得して、きちんと入社試験にも合格して、エテルノ直営店側の事務局に勤務していた訳だし、それが、どうして、何を間違って、学歴もなんのスキルもいらないこんな部門に追いやられないといけなかったのか、いまだに納得してない。
だから、柿坂君が「清掃は高尚な仕事」なんていったところで、今現在、私にはその高尚さがなんたるかがまったくわからない。

私は、大きくため息をついて、柿坂君の背中を追いかけながら、バックヤードの迷路のような通路を重い足取りのまま売り場へと歩いていった。