私の存在は・・・無視ですか!?

思わずイラっとしてみたけど、そこは大人なので堪えて、挨拶をしてみる。


「おはようございます」

「柿坂君、昨日は休みだったの?!えりかすごい寂しかったぁ!」


私の挨拶は完全に無視して、彼女は、私を押しのけるように柿坂君の目の前に立つ。

なにこれわかりやすっ!!

私は思わず、彼女の胸元についてるネームを確認してしまう。
そこには、高田 えりか と書かれてる。

私のイラつきアンテナは二本立ったけど、HMCの販売員だろう高田えりかは、そんなことなんかお構いなしに柿坂君の腕を掴んだのだ。
柿坂君は、ファイルを持ち換える振りで、ほんとに、ものすごくさりげない仕草で、ふっとその手をすり抜ける。
伊達に三十年近く生きてない私には、そんな彼の行動が意図したものだってすぐに判った。
ファイルに測定数値を書きながら、柿坂君はごく自然に笑って彼女に言う。

「昨日は、ボスに呼ばれてモールゾーンに行ってた~
山崎さんが色々やらかしてくれて、なんか始末書書かされてた」


え?
始末書?!

私はハッとして柿坂君の顔を見てしまった。
柿坂君は、そんな私の視線に気づいて、ちょっとだけ首をかしげると、片手をわずかに上げて次に行こうっていうような仕草をしたのだ。

「高田さん、すいません、光沢度測らないといけないんでまた!
長谷川さん、行きますよ~」

「え?あ・・・は、はい!」

急に名前を呼ばれて、私は慌てて柿坂君の長身を追いかける。


「あ!柿坂君!もぉ!今度一緒に遊びにいこうね!!休み教えてね!!」

HMCの販売員、高田さんは、そんなそっけない柿坂君の背中にそう叫んでいた。
その言葉に、柿坂君は何を答えることもなくさっさと次の測定場所へと足を運んでしまう。

うわぁ・・・
イケメンは、あんな可愛い子にもその態度なの!?
まさか、恋愛対象が同性なんてことないよね!?

そんな変な心配をした私は、なんとなく、高田さんが気になってふと後ろを振り返る。

すると・・・

彼女は、可愛い顔をめちゃくちゃいかめしい表情にゆがめて、思い切り私のことを睨んでいたのでした!!!


ああ・・・
なんだろう・・・
もう嫌な予感しかしない!!!!




こうして私は、掃き溜め部門と呼ばれる清掃部門には、まったくもって似つかわしくないスーパーイケメン、柿坂 海里と出会った。
幸か不幸か、それが私にとっての人生の転機だったなんて、この時の私は、全然まったく気づいていなかったんだよね・・・