そうだ、思い出した…!
肩に覆われた腕をどけ、巧さんたちの方を振り向いた。
「どうして、俺が女だって分かったんだ」
すっかり忘れていたが、そのことが原因でここに連れて来られた。
「おー、すっかり忘れてたな。
そのことだがな、俺たちが呉服屋の子に生まれたからだ。」
呉服屋?
「呉服屋には色々なお客様が来るわ。
老若男女関係なくね。
私たちは小さい頃から
色々なお客様を見てきてるから、
男装、女装してる人は大抵見分けがつくの」
そういうものなのか?
なんだか凄いな。
呆気にとられていると
「けど、と言ったら変だけど、私たちはあなたのことを他の人に伝えないからね?」
だから安心してと付けたして言った。
…なんで、そこまでするんだ?
今日初めてこの町に来て、初めて話した赤の他人の俺なのに……
俺は二人を信用もしない、刀を抜こうとしたのに、どうしてだ?
「どうしてか、って顔してるな。」
ニヤリと笑っている顔。
「俺らが商売人だからとかそんなことじゃなくてな、この町に住む人としてだ。」
「まだ若い伊織ちゃんがそこまでするのには理由があるんでしょ?」
そうだ、理由もなくこんな格好をしているのではない。
別に今更着物を着たいとも思ってはいないが、理由があるから男装をしている。
