何時からだっただろう香奈は1人誰も居ない時間に食事を取り始めたのは。もう随分と1人で食べていた。


おばぁちゃんの家に来るまでは。

おばぁちゃんの家の土間にあるテーブルの上には3人分の朝食と少し気まずそうな香奈と紀子の顔があった。その中で嬉しくてたまらない顔で両手を合わせ今か今かと待ちわびる彩未。


『いっただきまぁす』

痺れを切らした彩未が元気な声で言うと香奈と紀子は釣られて「頂きます」を言った。

あんまりにも同時に言ったので照れくさくなった香奈は下を向いてお味噌汁の中の大根を箸でつまんだまま汁をかき混ぜた。何だか彩未の独壇場と化したおばぁちゃん家の土間は賑やかになり暖かい風が勝手口から柔らかく何やら呟きながら吹き込んでもう春が側に来ている事を知らせた。

そんな優しい風が香奈の前髪を揺らして香奈は幸せな気持ちを素直に受け入れた。


『ごちそうさまぁ』

彩未は香奈の作ってくれた朝食が満足だったみたいで空になった茶碗の中を香奈に向けてニッコリ笑った。香奈はそんな姿を見て何故か感動して目が熱くなった。

『彩未。美味しかったねぇ』

紀子が彩未の顔を覗き込む様にして優しい顔で聞いていた姿は昔、幼かった香奈に向けられていた事を思い出して「ごめんなさい」と香奈は小さく呟いた。自分が何時も卑屈になってしまった理由が何だったのかも思い出したくなかった。だだ2人の姿を申し訳無い思いで見詰めていた。