バスに乗り込んだ香奈は中央辺りの右側の席にふらりと静かに座ってバスの窓を数センチ押し開けた。狭い空間で全てを閉ざされるのが苦手だと思っていたので何時も乗り物に乗る時は雪の降る凄く寒い日以外はこうして窓を開けるのだ。

この先の不安を窓の隙間から追い出そうと静かに息を吐きながら車窓から見えるあの桜の樹の天辺を見ていた。

圭亮は香奈とは反対の通路を挟んだ左側の席の窓際に腰を下ろした。運転手以外は2人だけしか乗ってないのに何故か香奈の隣に座るのが躊躇われたのだ。

ー朝の運転手じゃないなー

佳亮は運転席に座る白髪混じりで小太りな運転手の背中をまじまじと見ながら今朝の運転手の事を思い出していた。

もう辺りの山々の頭の方から藍色の暗闇が村を香奈達を包んで来ていた。