紀子は良幸と離婚してから何時も帰りが遅くなっていた。離婚したと言っても良幸の診療所で一緒に働いているのだから父の診療所の敷地内に小さな2dkの家を建ててそこに住まいを置く良幸の世話してから帰って来るのだった。

香奈は自分のせいで両親が離婚しなければいけなくなった事を理解していた。ある夜呑んで来たらしい良幸が泣きながら玄関先喚いていたが最後の方の言葉は小さな声で切なく呻くようだった「恥ずかしい」香奈は階段の上からそんな情け無い父親の姿を見て腹が立った。

『あなた大丈夫ですか?こんなに酔っぱらうなんて』

そう言いながら心配そうに良幸を介抱する紀子の姿が香奈には苛つくのだった。その夜良幸と紀子が明け方近く迄話をしていたのを香奈は知っていた。香奈は携帯電話で遊びながらずっと明け方迄起きていたのだから。

其れから本当に早いうちに良幸は家を出て行った。家族を捨てたのでは無く自分を捨てたのだと香奈は思った「別にあんな人なんかどうでも良いやん彩未のお父さんでも私のお父さんじゃ無いんやし」そう自分に納得をさせると良幸が出て行く時のあの後ろ姿を忘れるように自分に何度も言い聞かせた。

彩未は香奈の小さい妹だ八歳になる。何かを相談したくても話が合うはずも無く香奈は次第に彩未の相手もしなくなり1人心を閉ざすようになって行った。