『ばぁちゃんほんま大丈夫なんやろか?』


香奈は胸の奥が不安になったものの気を取り直しネコ車を持つ手に力を入れて静かに頷きふと空を見上げ思った。

桜の樹に行ってみようと。畑に行くまでの細道の脇にもう1本細道がありそこ曲がって行くとあの桜の樹にたどり着く。

おばぁちゃんが教えてくれたんだ。そこに行けば何が香奈を待っているようなそわそわした気持ちに駆られ少し早足で歩いた。

そして桜の樹に開けた所で足を止めた香奈は「あっ」と細く声を出して息を止めた。

桜の樹の幹に頬をぴたりとくっ付け目を閉じてまるでに息をしていないかの様に寄り添っている先客が居たからだ。

香奈の中で静かに時間は暖かな風と共にゆっくり過ぎた。


暫く目を閉じていた彼はそっと開け香奈の気配を歓迎するかの様に微笑んで振り向いた。少し色白な顔、痩せているけれど背が高くハイネックの黒いセーターと洗いざらしのビンテージジーンズに履き込まれた古いごげ茶のハーフブーツ、前髪が目の上にかかりそこから覗く色の薄い茶色い瞳は懐かしさを香奈の心で温めた。

けれど、彼が着ているグレーのダウンジャケットが少し寂しさを感じさせていた。


『久しぶりだね香奈ちゃん』


彼は少し照れくさそうに左手で頭をかいた。


『圭亮くん』



香奈は四年前の面影を繁々と見つめる。何だか圭亮でありながら違う人の様な気にも感じたりした。

『香奈ちゃん、今から何処にいくん?』

圭亮は香奈の畑用服に目を細めて笑った。