そんな事を思いながら香奈はおばあちゃんのシワシワの顔を見た。今の自分がこうして生きているのは、おばあちゃんの優しさを感んじているからだと。

ゆっくりと暮れて行く空と急に冷えて行く空気に少し寂しさを感じて来た香奈は辺りを見渡すと側に落ちていた枯葉を一枚拾う い、しばらく眺め読みかけの頁に挟みパタンと本を閉じた。

「おばあちゃん大丈夫なんやろか?」今朝方のおばあちゃんの様子が気になり香奈は不安になりながら立ち上があると左手でお尻をぽんぽんとハタクき歩き出した。「今日は会えんかった」一度桜の樹を見上げたが風が枝を揺らすだけで「コトダマ」は見え無かった。


「ボクハ カナノソバニ イツッモイルカアラネ」コトダマは真ん中程の枝に腰を掛けて香奈が帰って行く後ろ姿を何時までも見送っていた。



家に帰るとおばあちゃんはお風呂の釜に薪を焼べながら何やらボンヤリと考え込んでいた。その姿は何だか淋しく見えて泣きそうになった。

『バアちゃんただいま』

香奈がこれで三度目になる「ただいま」を言った時にやっと肩を一瞬ヒクッと動かし振り向くと無理矢理に見える笑顔で。

『あぁ香奈お帰り』

そう言って慌てる様に2、3本薪を釜にほり込むと釜から離れて御手洗いに入ってしまった。何故だか泣いているように見えた。