彩未が学校から帰ると誰も居ない静けさが家中に染み渡っていた「お姉ちゃんいないんかな?」紀子が何時も香奈に作ってから出掛ける昼ご飯のメモ書きがそのまま置いてある。彩未は冷蔵庫を開けるとラップに包まれたままのオムライスが手を付けられる事も無くそのままあった。そんな時は紀子が帰宅してから紀子が食べる事を彩未は何時も何と無く淋しく感じるのだった。

自分の部屋に行き隣の香奈の部屋の物音を壁に耳を当てて探った。何時もなら香奈の部屋からは携帯電話のピコピコ音が激しく忙しく聞こえてくるのだけれど今は聞こえずとても静かだった。何時も流行りのオンラインゲームをしているらしい。

一度彩未は香奈に何をしているのか聞いた事がある。

『お姉ちゃん、何してるん?』

そう聞かれた香奈は携帯電話の液晶画面を無表情に瞬きもせず見つめたまま両手の親指だけを忙しく動かしながら答えた。

『友達としゃべってんねん』


『お友達って?』


最近香奈は家からほとんど出ていないし電話がかかって来て誰かと話す事もなかった事を知っていた彩未は意味が分からなかった。

『別に顔とか知らなくても友達になれんの』


香奈は彩未の困惑顔を見てイライラしながら言った。

『そんなん、友達やないやん』

彩未は香奈の携帯電話の液晶画面を覗いた。

『何やの!邪魔やどいて』

香奈はそう言うと彩未を突き飛ばした。そして何事も無かったかのようにスマホの画面を忙しそうに指で撫でた。


携帯電話の液晶画面には目のくりくりして可愛く笑う女の子のアバターが貼られていた。




*

彩未はこのピコピコ音が大嫌いだった。ランドセルを机の上に置くと中から宿題の計算ドリルと算数のノートを取り出した。宿題を口実に香奈の部屋に行き香奈が居るのか確かめようと筆箱をノートと計算ドリルに重ねて部屋を出た。


『お姉ちゃん、宿題教えて』

そう言って香奈の部屋のドアを開けたら香奈は何をする訳でも無く部屋の空間をじっと見詰めてベットの下に座っていた。