そこへ紀子が帰って来た。帰宅した紀子が目にした物は正に今足を上げて小さな彩未を蹴ろうとしている香奈の姿だった。

『香奈!また彩未を泣かして何がそんなに気に入らないのっお母さん分かれへんよあんたの気持ちが!いい加減にして!』

そう叫ぶと買い物袋を香奈に投げつけた。投げつけられた買い物袋は鈍い音をたてて香奈に当たりそして玄関へ中身を散らして落ちた。益々エスカレートする香奈の不貞腐れた態度が紀子には腹ただしくどう香奈に接して行けば良いのか解らなくなってしまった。

『何でなん?何でやの?もう止めてや。お母さん分かれへん』

香奈はそんな悲しげに疲れている紀子を睨み付けると階段を駆け上がり部屋に入って思いっきりドアを閉めた。二人のやり取りを泣き止んだ彩未は見ていたが、香奈の閉めたドアの大な音にビクッと身体を引きつらせた。

香奈はまた布団に潜ると何故か悲しくなって「私にも分かれへん」と呟いた時涙が出て来て止まらなくなった。

香奈が立ち去った後紀子は泣きそうになる顔を彩未には見せられないと必死に抑えてさっき投げた買い物袋から散らかった物を拾い割れて中身が出た卵を片付け「私が悪いんよ、香奈の気持ちも考えず良幸さんと結婚したから。香奈の本当の父親でもあかんかったんやろか?」そう心で呟きながら良幸と結婚した事を少し後悔した。



香奈は両親が結婚するまでは本当にお喋りで明るくよく笑う子供だった。妹の彩未が生まれてからは益々自分の殻に閉じこもり何時しか誰が見ても孤独感を感じさせるようになって行った。