『イイヨ マエノミチヲマッスグアルケバイエニカエレルヨ マタネ カナ』

そう言うと男の子はニッコリと笑った。

『ねえ、君の名前は何て言うの?』

香奈は男の子の座っている桜の樹の中程に爪先を立て首を伸ばして聞いた。

『ボクノナマエハ コトダマ ダヨ。カナ バイバイ』


そう言うと「コトダマ」はスルスルと桜の樹の上の方に上って行って見えなくなった。

香奈はしばらく呆然と「コトダマ」の見えなくなった枝の隙間を見ていたが、我に返り教えて貰った道を真っ直ぐに歩き出した。今度は一度も振り向かずに。振り向いてしまうと何故だかいけないような気がしたからだ。

『コトダマ・・・ありがとうまた会えるよねきっと』

香奈はそう呟きながら前に前に歩いていた。


『カナ マタアエルヨ』


「コトダマ」は桜の樹の上の方の枝に腰掛け何時迄も香奈の歩いている道を見ていた。