香奈は桜の樹迄の道のりを少しづつ積もる雪がまだ浅く砂利の混ざる足音を自分の吐く息のリズムに合わせたかのように同じ調子で踏みながら歩いた。その道すがら、ある日おばぁちゃんが話をした『言霊』の話を思い出していた。


ある日の昼下がり、おばぁちゃんは何時もの様に〈ミノモンタ〉のテレビを観ながら何やら独り言を言っているみたいだった。香奈も何時もの様に縁側に座り山の景色をぼんやりとながめていたが、おばぁちゃんの独り言が聞こえて部屋の中を振り返っておばぁちゃんの背中を見た

よく聞くとおばぁちゃんは独り言では無く背中を香奈に向けたまま香奈に話を聞かせている様子だたった。

香奈はそんなおばぁちゃんに近づこうと一瞬思い縁側を立ったが、少し思い直して、また縁側に座り直しておばぁちゃんの背中を見た

『言霊っうもんはな。人の言葉に宿る力やそうや。言葉っうもんは人を助けたり慰めたらりするがな。傷付けてしまったり殺める事も簡単に出来る。恐ろしいもんとでも言ってもええのんか?バァには分からんけどな。人が言葉を口にする時つうのは心の声を「漏らす」って事でもあるんやろな、たまに、人の心には天邪鬼って鬼もいてな言わなくていい言葉も漏らしてしまう。意に反してな』

おばぁちゃんはそこまで言うと炬燵から出て香奈に向き合いちんまりと正座で座り直した。