桜が咲く頃～初戀～

圭亮はその指された左胸を左手の手のひらで押さえた。


『そうそう。昨日圭が帰ってきとるってうちのお母さんから電話来て懐かしいし、あの時の事を謝りたくて私も今日の昼に帰って来たんよ。ごめん。圭が誰が好きとか知ってて無理矢理振り回して。何時か絶対自分の事を想ってくれると勘違いしてた』

そう言うとくるりと居間の方に振り向き部屋に入って行った。


圭亮も後について居間に入ると父親の鉄郎は酒を飲んでいたのか既に出来上がっており。綾香から敬涼を奪う様に膝の上に乗せて満更でもない顔でニコニコとしていた。


百合子はその姿を見ながら


『お父さん。もうあんまり呑まんでよ。終わり終わり！』


そう言うとキッチンに行って酒の一升瓶を隠した。


テーブルに晩酌用の刺身と漬物だけが乗ってあり



キッチンの奥から百合子が「綾香ちゃんご飯食べて行かんね」と声を掛けたが綾香は丁寧に断り小一時間過ごした後実家帰ると席を立った。

百合子は名残惜しそうに

『圭も、早くこんな可愛孫を抱かせてくれたらいいけんど…』

と言ったのを圭亮は「ハイハイハイ」とかるくあしらい綾香を送る事にして家を出ると小走りに綾香に追いついた。