「集中できないよ。カイ」
椎が小さな声でつぶやいた。

ローテーブルに向かい合って座ってた椎とカイ。
来週から期末テストで、今は椎の部屋で勉強中。
金曜日の夜、時刻は10時を回っていた。

10分休憩って言ったのに
カイったらいつの間にか寝てしまっている。

お仕事と勉強の両立って大変だよね。

白い肌に長いまつげ
細くて大きな手
長い足に、重さのある声に、甘い笑顔まで
周りから王子様と言われることだけあるルックス

「本当・・・長いまつげだね。」

椎は手を伸ばしてそのまつげにそっと触れた。
相当疲れてるのかカイはビクッともしない。

寝顔がこんなんだっけ?
久しぶりすぎてよく思い出せない。

でも
よく見てみたら無邪気な寝顔は昔のままで
その時のようにほっとする。

椎はじっとカイの寝顔を見つめていた。


俺は
椎の指が自分のまつげに触れるのが分かった。
でも目を開けなかった。

少し、椎の気持ちが知りたくなった。


実はごないだ「見えるラジオ」収録の時に
偶然見かけてしまった。
俺の目はいつも椎のことを追ってるから
つい見つけてしまうんだと思った。

目先にいたのは楽しそうに話しながら歩いてるツーショットとで
日向という野球やろうと一緒だった。
普通に街中を歩けるのが羨ましかった。

あいつは本当に彼氏なのか?
天気のいい土曜日にデート?
また胸の中で何かがモヤモヤしてた。

その日
一緒に期末テストの勉強したいとおネダリして
オッケーのサインをもらった。

派手にできないのであれば
地道に変えるだけだ。

「こんな顔・・・」
椎が小さく呟いた。

ねえ、カイ。
こんな顔、また誰が知ってるの?
誰にでも見せないで欲しいな。

きっと
見たら触れたくなるから。

「誰にもみせないで・・・」

その時
カイの手に捕まれた椎の手
「ぅわっ・・・」

カイは少し顔を上げて
びっくりした顔で固まってる椎に
少し涼しげな声で言った。

「だめだよ。この浮気もの」
「は、はい?」
「スキンシップは・・反則だ。」
「起きてたの?」
「寝てた」
カイは椎の手を離して上半身を起こした。


「そんな顔すんなよ。抱きしめたくなるから。」

なんだかちょっと困ったような顔が可愛くてつい・・・
カイは椎から視線を逸らして顔を横に向けた。

その顔も
反則・・・。

「あ、あたし、飲み物でも取ってくるね。」

カイの馬鹿

椎が下へ降りていく音がした。
カイは大きなだめ息をついた。

「俺何やってんだろう」

と独り言をしながらベッドの上で鳴る椎のケータイに気づいた。

おっと!
我がグループの新曲が着信メロ
なんだか照れるな。
興味なさそうにしてたくせに・・可愛い

とか思いつつ、そっと手に取ってみた。
着信は
<< 日向くん >>

一瞬
その電話に出たくなった。
親指が通話ボタンに触れたけど押すことはできなかった。

自分に
勝手に椎の電話に出る資格などないから

ベッドの上にケータイを戻したどたん椎が部屋に戻ってきた。
「着メロ・・・ありがとう。」
「え?」
「ケータイ・・・しつこく鳴ってた」
カイはフッて笑って見せた。

「奈菜からもらったの。カイと仲良くしてと」
少し照れてる様子の椎がそう答えた。

ちょっと意地悪な表情のカイは
「折り返したら?」と聞いてきた。

その時、また電話が鳴った。

<<日向くん>>

余裕かまして着メロを口ずさんでるカイ。少し複雑な顔をしている椎。
「出ないの?いいじゃん別に俺が居たって」
「ううん。カイのせいじゃない」ピッって電源ボタンを押しながら言う椎。
「じゃあ、何?」
「別にいいじゃん!出るか出ないかあたしの勝手だし。カイと関係ないでしょう?」
「関係・・・ないか・・・。いや喧嘩でもしたのなら相談くらいは乗れるし。てか何?そいつと付き合ってんの?」
なんか少しカリカリしてる椎の気持ちを軽くしてあげたかったけどなんとなくイライラしてきた。
何も言わずに黙っている様子からするとこれはきっと
「彼・・・優しいの。一緒に居るとたくましいっていうかほっとするって言うか。でも、あ!彼、野球選手なんだけど・・・」
あ、そう?
「チームのエースで練習がすごいらしくて。まぁ優しい彼だから会いたいとか言ったら練習抜け出してくれる。でも練習の邪魔にはなりたくなくて・・・」
ふーむ。
関係ないじゃんとか言ってたのは椎なのに、いつも間にか彼に言えない話をカイに零していた。
「それで?」
涼しげな顔をしたカイに気づいた椎は慌てて話題を変えた。
「って言うただの独り言はおいといて、カイはどう?仲良くなった女子アイドルとかいる?もう色んな子に告白されたり?」
「まあね。」
「そう・・か。良かったね!カイはいつも人気物だからね」
「何お前、今日?何普通に線引いてんだよ?お前、本当に・・」
「え?」
お前、本当に・・
分かんないの?
それとも分からないふりをしてるの?
それもないなら、分かりたくないの?
「もう、いいよ。俺帰る。」
カイは椎を見つめていた強い視線を伏せた。
「カイ・・・勉強はもういいの?」
「ああ。」
椎の馬鹿。
本当に俺が勉強するだけに来たとか思ってんの?
ご機嫌ナナメな時のカイはそれを我慢するために下の唇を噛むくせがある。
今カイは下の唇を噛んでるんだ。
「ねえ・・カイ。あたし、なんかいけないこと言った?カイの恋愛話聞きだそうとしてるとか思ってたら誤解だから・・あたしはただ・・」
「分かってる。椎は普通に話しただけなの分かってるから。椎のせいじゃないから・・・」
もうこれが限界。
カイは机の上の教科書や荷物を纏めて立ち上がった。
コンコン
ノックをして部屋のドアを開けたのは工だった。
「たっくん・・」
工は困った顔をした椎にすぐ気づいた。
「ちび。椎になんかした?」
「してねーよ。俺もう帰るし。」
「仲良く勉強してるかなーと思って来てたらなんなんこの雰囲気?」
「さぁ。
妹さん色々悩みあるみたいだから相談に乗ってあげたら?俺には到底出来そうにねーよ。」
ふって笑った工はカイの頭をグシャグシャにした。
「可愛い奴」
その工の手を払ったカイはちょっと小さい声をお休みって言って階段を降りていった。