「アイツ、まったく初日から気に入らねーよ。」
「伊崎さんのこと?」
「違う。こいつだよ。このチビやろう」
直がテレビ越しに移ってるカイを指差した。口の中が爽やかになるガムのCM
「学校は絶対行ってるって言ってたくせによ。」
「あ!!!」
椎もまたテレビを指差してソファーから身を起こした。
「どうした?」
「伊崎さん!!・・がテレビに」
「知らなかったの?さっきの親切なクラスメートさんはカイと同じユニット」
「へぇ・・・。全然知らなかったよ。」
「たまにはテレビも見ろよ」
「なんか綺麗な子だな~とは思ったけど。なおにー詳しいね!」
「だろう?お兄ちゃんは何でも知ってるからいつでも聞いてきていいぞ」
嬉しそうな顔を浮かべた直は、ノートパソコンの画面を椎に向けた。
そこには伊崎玲苑のプロフィルが表示されていた。
「実はたった今知りました。俺は男には興味ないからいちいち顔なんか覚えてないし」
「だよね?」
「でもさ、でもさ。お兄ちゃんは色々と知ってるから頼りになるぜ~それは間違いないよ。」
「普通、自分で言う?」
「いいの、いいの。だって事実だし?こう見えても成績トップで椎のお兄ちゃんは完璧すぎだね?」
と言いながらニッて笑って見せた。
「もう本当負けず嫌いなんだから。」
「お前はそこが粗だね。ただいま」
「たっくん、お帰り」
スーツ姿の工は疲れた顔をしていた。時刻は夜の10時半で
「遅かったね。」
「しつこくてさ」
工はキッチンに行ってコップいっぱいの水を飲んだ。
「どうしたの?」
椎は工に問いかけた。
「年上の彼女と別れてきた。ごめんね、椎。今日迎えに行けなくて」
「ううん。平気」
椎は顔を横に振った。
「先にお風呂に入るね。」
と言った工は2階の部屋に上がっていった。
「モテる男は疲れるよ~いいことばっかじゃないから」
「周りから見ると幸せな悩みでしょう?あたしもそろそろ部屋に戻らないと」
椎がソファーから立ち上がってガラステーブル上のケータイを手に取った。
「そういえば、なおにー、さっきは伊崎さんに何話したの?」
「ああ、大したことじゃないよ。ファンの管理方法っていうやつかな?」
「そっか、しばらくぼっとしてた気がして・・・」
「見ず知らずの人からアドバイスされて嬉しいあまりに?」
「そういう解釈はなおにーらしい。」
椎はそれ以上聞かなかった。
お兄さんたちが今まで妹のためにだからって
悪いことした話は聴いてない。
少なくても椎に被害情報が入ったことはなかった。
「奈菜に頼まれたことあるから。部屋に戻るね。」
直は2階への階段に上る椎に
「楽しい学校生活になるといいね」と言ってくれた。
椎はラジオをつけてベッドにダイブした。
ラジオからはさっきテレビで見たガムCMの曲が流れていた。
「奈菜~~勘弁してよぉ」
とつぶやきながら目を閉じて聴くと
何人の声からもカイの声はすぐ分かっちゃう。
しかも生放送で今夜のゲストはカイが属しているユニットで
新しくリリースされるシングルのフールバージョン初公開だって
着メロと同時に奈菜からメールが届いた。
<急に転校なんかするから。
これくらい意地悪は可愛いモンでしょう?
毎日小宮くんに会うんだから免疫処方しておかなきゃ>
<ありがとう。その意地悪は甘んじて受けます。>
<録音よろしくね。何かあったら連絡して
それから、イロイロ話聞かせてちょうだい。>
椎は了解の返事をしてラジオに耳を澄ました。
ラジオではメンバーのトークが始まっていた。
「ちゃんと声聴くのって・・・久しぶり。」
とつぶやいた。
きっと気のせいだろうけど
なんだか最後に屋上で話した時よりも男らしくなったみたいで
その声を聴いていたら
急に会いたくなった。
また着メロと共にメールが届いた。
<椎。明日一緒に学校に行こう>
カイからだった。
伊崎さんから聴いたんだろうね
生放送中にケータイなんか使って
本当、馬鹿
<無理>
たった二文字の返事をした。
ラジオではタイトルコールの後にまたトーク。
「ではリスナーの皆さんと電話を繋げますが、どうしたんですか?小宮くん」
「え?」
「いや、なんか急にすっごく嬉しそうな顔をしてるから。」
「ああ、やっぱりファンのみなさんと話せる機会なんてめったにないのでつい」
「そうですね。じゃあ、最初の電話は小宮くんからお願いします。」
「はい。もしもし、こんばんわ」
「こんばんわ」
「KissRipキスリップの小宮カイです。自己紹介お願いします。」
「きゃあぁぁー!これ本当ですか?本当に小宮くんですか?」
・・・・・
・・・
・・
トントン
どれくらい天井を眺めていたのかいつの間にか寝てしまったみたいで
ノックの音でぱっと目が覚めた。
「椎、寝てる?」
静かな声でドアを開けたのは直だった。
「あ、なおにー」
椎が目を擦りながら身を起こした。
「お客さんが来てるんだけど」
「え?今何時?」
「今、夜中の12時過ぎてる」
「もうこんな時間・・・で、お客さんってこんな時間に?」
「うん。本当失礼なヤツだよね?追い払う?」
その「ヤツ」って言葉だけでお客さんの存在が分かった。
「外にいるの?」
「一応待っててと言ったけど、家に入れる?」
「写真とか撮られたら困るから、一応は・・」
少し状況を考えた椎はゆっくりそう答えた。
「椎ならきっとそうくるだろうと思って、はい。」
「ごめん、こんな時間に」
直の隣から姿を現したカイはまず椎に謝った。
「ドアは開けとけよ。俺はまだ勉強が残ってるんで」
と言って直は一階に下りていった。
椎はラジオの電源を切ってベッドに腰掛けた。
「座れば?」
「あ、うん。ありがとう」
緊張した様子のカイは適当に椅子に腰掛けた。
しばらくシ~ンとした空気が流れた。
「な、椎。冗談だと思ってるんでしょう?メール」
「冗談とか本気とか分かんないけど、
カイなら本当に来そうで、来られたら困るから返事したの」
「正直、返事くるの期待しなかったから・・たった二文字でも嬉しかった。」
椎は黙ってカイの話をきいていた。
「あ、普段はぜったいしないけど、玲苑から流川さんの娘さんが転校して来たって聞いて、
なんだか信じられなくて、早く連絡しなきゃなんて思ってさ」
カイは照れながらも本当に嬉しそうな顔で話していた。
「だからって生放送中にケータイ使っちゃ駄目だよ。」
椎もカイに笑顔を向けた。
一緒に行けないなんて知ってても
それが本当の俺の気持ちで
ただただそれが伝えたくて
普通にそれが出来るのであればどれだけ幸せなんだろう
「やっぱ、無理だよね?」
「うん。無理。カイと一緒に、学校には行けません。」
転校してきたばっかりの人が
いきなりツーショット登校なんて
そんな目立つ行動出来ないよ。
普通に生活出来なかったら転校してきた意味ないし
楽しい高校生活なんて台無しだから
「今日からは転校生と小宮くんでよろしくお願いします。」
なんの説明がなくても
カイは椎が言ってることの意味が分かる気がした。
「ああ・・」
「伊崎さんのこと?」
「違う。こいつだよ。このチビやろう」
直がテレビ越しに移ってるカイを指差した。口の中が爽やかになるガムのCM
「学校は絶対行ってるって言ってたくせによ。」
「あ!!!」
椎もまたテレビを指差してソファーから身を起こした。
「どうした?」
「伊崎さん!!・・がテレビに」
「知らなかったの?さっきの親切なクラスメートさんはカイと同じユニット」
「へぇ・・・。全然知らなかったよ。」
「たまにはテレビも見ろよ」
「なんか綺麗な子だな~とは思ったけど。なおにー詳しいね!」
「だろう?お兄ちゃんは何でも知ってるからいつでも聞いてきていいぞ」
嬉しそうな顔を浮かべた直は、ノートパソコンの画面を椎に向けた。
そこには伊崎玲苑のプロフィルが表示されていた。
「実はたった今知りました。俺は男には興味ないからいちいち顔なんか覚えてないし」
「だよね?」
「でもさ、でもさ。お兄ちゃんは色々と知ってるから頼りになるぜ~それは間違いないよ。」
「普通、自分で言う?」
「いいの、いいの。だって事実だし?こう見えても成績トップで椎のお兄ちゃんは完璧すぎだね?」
と言いながらニッて笑って見せた。
「もう本当負けず嫌いなんだから。」
「お前はそこが粗だね。ただいま」
「たっくん、お帰り」
スーツ姿の工は疲れた顔をしていた。時刻は夜の10時半で
「遅かったね。」
「しつこくてさ」
工はキッチンに行ってコップいっぱいの水を飲んだ。
「どうしたの?」
椎は工に問いかけた。
「年上の彼女と別れてきた。ごめんね、椎。今日迎えに行けなくて」
「ううん。平気」
椎は顔を横に振った。
「先にお風呂に入るね。」
と言った工は2階の部屋に上がっていった。
「モテる男は疲れるよ~いいことばっかじゃないから」
「周りから見ると幸せな悩みでしょう?あたしもそろそろ部屋に戻らないと」
椎がソファーから立ち上がってガラステーブル上のケータイを手に取った。
「そういえば、なおにー、さっきは伊崎さんに何話したの?」
「ああ、大したことじゃないよ。ファンの管理方法っていうやつかな?」
「そっか、しばらくぼっとしてた気がして・・・」
「見ず知らずの人からアドバイスされて嬉しいあまりに?」
「そういう解釈はなおにーらしい。」
椎はそれ以上聞かなかった。
お兄さんたちが今まで妹のためにだからって
悪いことした話は聴いてない。
少なくても椎に被害情報が入ったことはなかった。
「奈菜に頼まれたことあるから。部屋に戻るね。」
直は2階への階段に上る椎に
「楽しい学校生活になるといいね」と言ってくれた。
椎はラジオをつけてベッドにダイブした。
ラジオからはさっきテレビで見たガムCMの曲が流れていた。
「奈菜~~勘弁してよぉ」
とつぶやきながら目を閉じて聴くと
何人の声からもカイの声はすぐ分かっちゃう。
しかも生放送で今夜のゲストはカイが属しているユニットで
新しくリリースされるシングルのフールバージョン初公開だって
着メロと同時に奈菜からメールが届いた。
<急に転校なんかするから。
これくらい意地悪は可愛いモンでしょう?
毎日小宮くんに会うんだから免疫処方しておかなきゃ>
<ありがとう。その意地悪は甘んじて受けます。>
<録音よろしくね。何かあったら連絡して
それから、イロイロ話聞かせてちょうだい。>
椎は了解の返事をしてラジオに耳を澄ました。
ラジオではメンバーのトークが始まっていた。
「ちゃんと声聴くのって・・・久しぶり。」
とつぶやいた。
きっと気のせいだろうけど
なんだか最後に屋上で話した時よりも男らしくなったみたいで
その声を聴いていたら
急に会いたくなった。
また着メロと共にメールが届いた。
<椎。明日一緒に学校に行こう>
カイからだった。
伊崎さんから聴いたんだろうね
生放送中にケータイなんか使って
本当、馬鹿
<無理>
たった二文字の返事をした。
ラジオではタイトルコールの後にまたトーク。
「ではリスナーの皆さんと電話を繋げますが、どうしたんですか?小宮くん」
「え?」
「いや、なんか急にすっごく嬉しそうな顔をしてるから。」
「ああ、やっぱりファンのみなさんと話せる機会なんてめったにないのでつい」
「そうですね。じゃあ、最初の電話は小宮くんからお願いします。」
「はい。もしもし、こんばんわ」
「こんばんわ」
「KissRipキスリップの小宮カイです。自己紹介お願いします。」
「きゃあぁぁー!これ本当ですか?本当に小宮くんですか?」
・・・・・
・・・
・・
トントン
どれくらい天井を眺めていたのかいつの間にか寝てしまったみたいで
ノックの音でぱっと目が覚めた。
「椎、寝てる?」
静かな声でドアを開けたのは直だった。
「あ、なおにー」
椎が目を擦りながら身を起こした。
「お客さんが来てるんだけど」
「え?今何時?」
「今、夜中の12時過ぎてる」
「もうこんな時間・・・で、お客さんってこんな時間に?」
「うん。本当失礼なヤツだよね?追い払う?」
その「ヤツ」って言葉だけでお客さんの存在が分かった。
「外にいるの?」
「一応待っててと言ったけど、家に入れる?」
「写真とか撮られたら困るから、一応は・・」
少し状況を考えた椎はゆっくりそう答えた。
「椎ならきっとそうくるだろうと思って、はい。」
「ごめん、こんな時間に」
直の隣から姿を現したカイはまず椎に謝った。
「ドアは開けとけよ。俺はまだ勉強が残ってるんで」
と言って直は一階に下りていった。
椎はラジオの電源を切ってベッドに腰掛けた。
「座れば?」
「あ、うん。ありがとう」
緊張した様子のカイは適当に椅子に腰掛けた。
しばらくシ~ンとした空気が流れた。
「な、椎。冗談だと思ってるんでしょう?メール」
「冗談とか本気とか分かんないけど、
カイなら本当に来そうで、来られたら困るから返事したの」
「正直、返事くるの期待しなかったから・・たった二文字でも嬉しかった。」
椎は黙ってカイの話をきいていた。
「あ、普段はぜったいしないけど、玲苑から流川さんの娘さんが転校して来たって聞いて、
なんだか信じられなくて、早く連絡しなきゃなんて思ってさ」
カイは照れながらも本当に嬉しそうな顔で話していた。
「だからって生放送中にケータイ使っちゃ駄目だよ。」
椎もカイに笑顔を向けた。
一緒に行けないなんて知ってても
それが本当の俺の気持ちで
ただただそれが伝えたくて
普通にそれが出来るのであればどれだけ幸せなんだろう
「やっぱ、無理だよね?」
「うん。無理。カイと一緒に、学校には行けません。」
転校してきたばっかりの人が
いきなりツーショット登校なんて
そんな目立つ行動出来ないよ。
普通に生活出来なかったら転校してきた意味ないし
楽しい高校生活なんて台無しだから
「今日からは転校生と小宮くんでよろしくお願いします。」
なんの説明がなくても
カイは椎が言ってることの意味が分かる気がした。
「ああ・・」
